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"KANADE" 1
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「おぉ篤。お前、奏(ソウ)に会ったんだって?」
衝撃的事実から3日。
例の映画の詳しい話を聞くために事務所を訪れた俺に、社長が声をかけてきた。
「あぁ、ハイ。偶然ですけど」
「奏が電話で言ってた。めちゃめちゃ驚いてたって」
「ハハ…」
「あ、あんたが、¨KANADE¨…?!」
「そうだけど?」
「は?え?マジで?」
「マジマジ」
「え、いや、¨KANADE¨って確か、もう10年以上活動してるって…」
「んー…そうだな。
初めて曲を提供したのは15年前だけど、本格的に活動しだしたのは18からだからな」
「へ?……えっと、今、何歳…なの…?」
「あ?30だけど?」
「えぇぇぇぇっ!!!」
衝撃的事実、パートツー。
「俺、てっきり、未成年かと…」
「あぁ、おもっきり童顔みたいだからな、俺。映画とか高校生料金で見れちゃう」
ケラケラと朗らかに笑う目の前の人物。
「…ってことは、俺より10個も上ってこと?!」
「そうだ。敬(うやま)え奉(たてまつ)れ。」
エッヘンと胸を張る。
信じらんねぇ…。
唖然としている俺。
結局そこで、仕事するから帰っていいぞと言われ半ば放心状態で家に帰った。
「¨KANADE¨さん…とは知り合いなんですか?」
「あぁ。高校の同級生」
これまた意外な事実。
「詐欺ですよね、あの容姿。俺未成年かと思いました」
「出会った頃はもっと幼かったぞー。かわいいのなんの」
くっくっと笑う社長。
幼かったとか、うわ、簡単に想像できる。
「奏が正体をバラさないのは、あの容姿のせいもあるんだ。
必要以上に顔をさらすのは好きじゃないからな、あいつ」
「え?…俺にはいいんですか?あ、曲を提供する相手には正体を明かすとか?」
「いんや?だいたい自分のマネージャー通してやり取りするから、正体は隠したままだぞ。
あいつは気に入った相手にしか、バラさないからな。だからお前は奏に気に入られてるってことだ」
気に入られてるって、なんで?
「会ったことないですけど?」
…うん、ないない。あんな人会ったら絶対覚えてる。
インパクトありすぎだもん。
モデルでもあんなけ可愛い人滅多にいないよ。そんじょそこらの女の子より可愛いし。
「まぁそこら辺は気にすんな。お前は自分の持てる力で頑張りゃーいいんだよ」
「はぁ…」
そこでマネージャーの橋本さんが来て、打ち合わせの場所へ向かう。
なんと着いた場所は、前に¨KANADE¨を送って行った家だった。
高い生け垣にぐるっと覆われた、洋風の家。
幅3メートルほどの門がある前に車を停めた橋本さんは、車を降りると門の横にあるベルを押す。
すると低い男性の声がした。
《はい、どちら様ですか?》
¨KANADE¨よりもずっと低い、バリトンボイス。おぉ、イケメンボイスだ。なんて感心する。
「glowの橋本と申します。
本日は¨ATSUSHI¨に楽曲を提供していただける件で、打ち合わせに参りました」
《あぁ、どうぞ。
入って左手奥に駐車スペースがありますので、そこに停めてください》
その声とともに、自動的に門の扉が開いた。
「分かりました。ありがとうございます」
車に戻ってきた橋本さんは言葉通り左奥にあったコンクリートが広がるスペースに車を停め、俺達は中庭を抜け、家の扉の前に着く。
橋本さんがドアベルを押すと、しばらくしてカチャンと音がし、扉が開いた。
出てきたのは、これまた芸能人かと思うほどの色男。
短く切り揃えられた髪をワックスで無造作にセットし、キリッとした眉毛に切れ長の瞳。
俺とそう変わらない身長に、サラっと着こなしたスーツ。
ハイブランドのモデルにいそうだ。
「初めまして。
私、¨KANADE¨のマネージャーをしております、高遠(タカトオ)と申します」
差し出された名刺を受け取り、視線を落とす。
高遠 肇 (HAZIME TAKATO)
名前だけが書かれただけの、シンプルな名刺。
「橋本さん。申し訳ありませんが、貴方はここでお引き取り願えませんか?
¨ATSUSHI¨くんは、私が責任を持って事務所までお送り致しますので」
「いや、しかし…」
困惑する橋本さんに、高遠さんは申し訳なさそうに笑みを浮かべた。
「すみません。¨KANADE¨は必要以上に顔を晒すことを嫌いますので。本来なら、歌う本人にさえ正体は明かしません。
しかし今回はこちらから¨ATSUSHI¨くんを指名しましたので、特例です。理解いただけますか?」
笑みを深くする高遠さん。
なんだろう。ハテナマークがあるはずなのに、イエス意外の答えはないぞ、と圧力みたいなものを感じる気がする。
「…解りました。では私はここで失礼致します。¨ATSUSHI¨をよろしくお願いします」
「ご理解ありがとうございます」
にっこりと笑い橋本さんに軽く頭を下げた後俺に中に入るように促す高遠さんは、何かを思い出したのか再び橋本さんに向き合った。
「あ、橋本さん。後で¨ATSUSHI¨くんに¨KANADE¨についての詮索はしないでくださいね?
情報が漏れた場合、この契約は破棄、glowさんに所属するアーティストに今後一切楽曲は提供しませんので」
ニッコリ笑顔で半ば脅迫めいた注意をする。
立場は¨KANADE¨サイドが圧倒的に強い。俺達は出された条件は飲むしかない。
どんな条件を出されても受け入れ、金を積んででも¨KANADE¨の作る曲が欲しがる者が後をたたないというのは、有名な話だ。
橋本さんは顔を青くしながらも、精一杯頷き、帰っていった。
「¨ATSUSHI¨くんも。口外はしないように」
笑顔をキープしたまま俺を見る。
……このひと、敵に回したらやっかいなタイプだ。
そう感じ取った俺は、コクコクと勢い良く首を縦に振った。
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