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"KANADE" 2
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「じゃあ¨ATSUSHI¨くん。こっちだ」
前に来た時とは違う方向へ案内される。
高遠さんに続いて部屋に入ると、そこは広い空間に黒い革のソファが二つ向かい合わせに並び、間にはガラステーブルが置かれただけのシンプルな部屋だった。
大きな窓から太陽の光りが入り、部屋の中を明るく照らしている。
「あれ?奏?」
前に立つ高遠さんが辺りを見渡している。
「外か?」
裏庭に面した大きな窓に近づき、開けて外を除いた。
なんとなく俺もそこに向かう。
そこに居たのは、木製のベンチに寝転がり、音楽プレイヤーから伸びたイヤホンを耳にかけ、目を閉じる¨KANADE¨。
ただベンチに寝転がっているだけなのに、なんて絵になるんだろう。
「おーい、奏」
高遠さんは窓の外に置いてあったサンダルを履き¨KANADE¨に近づくと、軽く体を揺すった。
「…ん?あぁ、肇。来たか?」
「あぁ、そこ」
と、高遠さんの指の先をたどり俺をとらえる¨KANADE¨。
「よぉ」
俺を捕らえた瞬間、ふっと笑った。
その笑顔に、心臓がドキッとした俺。その笑顔から、目が離せなかった。
前に¨KANADE¨が座り、その向かい側に座るよう案内される。
「ま、改めてよろしく」
「あ、あの、よろしくお願いします、¨KANADE¨さん」
偶然出会った日、未成年だと思った先入観と衝撃で敬語をすっ飛ばしてしまっていた。
よくよく考えたら、なんて恐ろしい。
10個も年上の、しかもあの天才作詞作曲家先生様に向かって…
なんて考えていると、前から笑い声が響いた。
「今さら敬語?いいぞ、タメ口で。敬語だと壁があるみたいだろ?前みたいに普通に話せ」
「え?いや、でも…」
「いいったら、いいの。それに俺のことは¨奏¨って呼べ。わかったな?篤」
篤、と呼ばれたことに、またドキッと心臓が鳴る。
「分かりまし…じゃないや、分かった、奏…さん?」
「¨さん¨いらない」
「…奏」
「おう」
な、なんだ。この人の笑顔は心臓に悪い。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
高遠さんが紅茶をいれてきてくれた。
そして、奏の横に座る。
「それじゃあ…あ、俺も篤って呼んでいいか?篤に楽曲を提供するわけだけど。
とりあえずこれを読んでサインもらえるか?」
さっきとは違い、ずいぶんフランクな話し方をする高遠さん。
呼び名を確認され、頷く俺を見ると話を続け1枚の用紙を渡してきた。
一番上には、¨誓約書¨の文字。
内容は、さっき橋本さんに言っていたこと。より詳しく書かれてある。
俺は最後まで読み終わり、渡されたペンでサインをした。
そのほか契約に関する書類の説明を受け、次々にサインしていく。
その間奏は一言も口を挟まず、俺たちのやり取りを眺めながら紅茶を飲んでいた。
「よし、これで書類はオッケーかな。じゃ、後は奏から説明があるから」
書類をまとめ鞄にしまうと、高遠さんは部屋から出て行った。
すると奏がん〜っと伸びをして、俺を見る。
「よし、じゃあ次は俺から。お前には、ここに住んでもらうから」
「へ?」
「事務所が管理するマンションに一人暮らしだろ?荷物はおいおい運んでこい。
それから…」
「いや、ちょっ…。何でここに…?」
急な展開に、奏の話を止める。
「お前、歌ったことなくて、不安なんだろ?」
葵が言ってた、と続ける奏。
「…うん。
歌に関しては素人だし、出来るかどうか…って、何でこれがここに住む話につながんの?」
「だからだよ」
「え?」
「俺が、お前を鍛えてやる。声の出し方、息継ぎ、抑揚のつけ方。基本からみっちりな。
ここ、地下にレコーディングスタジオ完備だから、歌撮りも編集も全部ここでやるんだよ。
通いは時間がもったいねぇから、レコーディングが終わるまでここに住め。
分かったな?」
「わ、わかった…」
半ば押され気味に頷く俺。
すると奏は金と銀の、あの不思議と惹きつけられる瞳で、じっと俺を見る。
「俺が直々に見てやるんだ、感謝しろよ?」
お前の不安なんか、俺が吹っ飛ばしてやるさ
そう続けて、心臓に悪い笑顔で笑う。
そしてやっぱり、俺はその笑顔に釘付けになるんだ。
ーーこうして、俺の住み込み生活が始まった。
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