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自分の気持ち 1
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「はい、ラスト!」
カシャカシャっとシャッター音が数回響き、撮影終了の声がかかる。
「お疲れ、篤」
「ありがとうございました、水瀬さん」
俺は写真を撮っていたカメラマンに挨拶をする。
水瀬和馬(ミナセカズマ)さん、歳は確か33ぐらい。
茶パツにピアス、ネックレスに、ごつい指輪。
背は180ないぐらい、肌は茶色く焼けていて一見チャラそうなこの人は、世界でも名の知れたプロカメラマン。
この人の撮る人物写真はもちろんだが、風景写真がすごい。
一度目にして 、すぐに惹きつけられた。
写真なのにそれからは¨生きてる¨エネルギーが伝わってきて、目を奪われる。
「あ、篤。歌、歌うんだって?映画の主役だしすげーな」
「ハイ。今頑張ってます」
「どんどん有名になってくなー。俺は嬉しいよ」
ニカリと笑った水瀬さんは、手を伸ばして俺の頭をワシャワシャと撫でてくる。
俺がモデルを始めたとき初めて写真を撮ってくれたのが、その雑誌の専属カメラマンだった水瀬さんだった。
ガチガチに緊張した俺を、人好きのする笑顔と気さくな会話でほぐしてくれたことを思い出す。
「しかも、曲提供があの¨KANADE¨だろ?」
奏の噂はカメラマンである水瀬さんの耳にも入っているようだった。
「すげーよなぁ。あ、でも¨KANADE¨ってすげー厳しいって噂だけど。
なんか自分の¨商品¨に妥協しないって」
「…え?」
──商、品…
その言葉が胸に引っかかる。
「俺の知り合いがいるレーベル会社からCD出すことが決まったときも、きっぱり言ったそうだぜ。
¨自分の商品をどうこうしようが、口出しをしないで下さい¨って。人を商品呼ばわり、しかも上から。
おっかねー!だけど、売れんもんなぁ。確かにいい歌ばっかだしーーー」
その他にも色々言っていた気がするけど、水瀬さんの言葉が頭に入ってこない。
¨商品¨
…奏も、初めて会話をした時に、確かにそう言った。
¨自分の商品のことだ¨って──。
俺のことを気に入っているのも。
俺に期待してくれてるのも。
──全て、¨商品¨として。
胸が、イタイ。
どうしてだ?
なんで、こんなに、胸がイタイんだろう。
「─し、篤っ?」
「─は、ハイっ」
ハッとして横を向くと、水瀬さんが不思議そうに覗き込んでいる。
「やっぱり無理難題ふっかけられてんのか?¨KANADE¨に」
「えっ、いや、違いますよ」
無理難題なんて、言われてない。
むしろ奏は自分の時間を割いて、俺に教えてくれてる。
でも、鬼のごとく指導してくれるのも、たまに満開の笑顔で褒めてくれるのも──商品だから。
そう思うと、なぜだか悲しかった。
撮影がスムーズに終わったので、予定よりも1時間早くスタジオを出れた。
家に帰ってから奏とまともに会える自信がなくて。
なんで自分がこんなに落ち込んでいるのか分からなくて。
スピードを遅くしながら運転しても、いつかは家に着く。
渡されたリモコンで門を開け車を中に入れる。
と、家の前にある駐車スペースに高遠さんの車が停まってあるのが見えた。
そのことに少し、安堵する。
高遠さんは今日夕食までいるかもしれない。
奏と、二人っきりじゃない。
車を降り家の扉を開けようとすると、鍵が掛かっていた。
奏一人なら鍵は掛けてあるが、高遠さんや社長が来てきいるときは、だいたい開けっぱなしだ。
少し不思議に思いながらも鍵を開ける。
中に入りリビングへ足を進めると、かすかに話し声が聞こえる。
リビングのドアの取っ手に手をかけた──その時。
「や、はじめっ──、やめっ…ンンっ…──」
耳に届いたのは、奏の、普段とは違う…表現するならば、甘い声。
「今更やめたら、お前が辛いだけだろうが。いいから黙ってろ」
高遠さんの、いつも通りの声。
「や、ぅンっ…、つらく、ても、い…からっ…」
「奏。いいから黙れ」
何を…してる?
俺は取っ手に手をかけたまま、動けずにいた。
「ふ、や、はじっ…も、ダメ…っ」
「我慢すんな」
切羽詰まったような、奏の声。高遠さんが言葉を告げた瞬間。
「っっ──あぁッッ!」
奏の、より一層甘い声が聞こえた。
これは、紛れもなく──喘ぎ声。
静かになる室内。
俺はただ、¨逃げなきゃ¨と思い、体を動かそうとした。
──が。
取っ手にかかっていた手が、そのまま取っ手を下に押し下げ、そのことによってカチャンっと音がする。
「──誰だ?」
いち早く反応したのは、高遠さん。
ドアに向かってくる足音を聞きながらも、俺は体が硬直し動けずにいた。
キィ…とドアが内側に開く。
「──篤、」
ハッと驚いたようなその高遠さんのつぶやきに俺は体がビクっとし、中からはドサっと何かが落ちる音がした。
「─とりあえず、中入れ」
そう言われて、背中を押される。
視界に映ったのは、床に座りこんだ状態の奏。
ズボンと下着が、少し下に下がっていた。
何をしていたのかは、一目瞭然だ。
「篤、座れ。奏も、服をちゃんとしろ」
その言葉に奏は慌ててズボンを上げ、俺は奏の向かいに座った。
ーーーー気まずい雰囲気が流れる。
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