アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
自分の気持ち 2
-
奏はずっと下を向いているから、その表情は見えない。
俺は、そんな奏を見ていた。
「ほら、コーヒー」
テーブルに置かれたカップは二つ。
え?二つ?
「奏、ちゃんと説明しとけよ。
篤、悪いな。これから仕事なんだ。話は奏に聞いてくれ」
と、この気まずい雰囲気を置き去りにして、本当に出て行った高遠さん。
呆然とその背中を見送った。
置かれたコーヒーを手に取ることもできず、黙り込む俺と奏。
さっきの声が、ぐるぐると頭をまわる。
奏と高遠さん。
そういう行為をしていたと言うことは、二人は恋人同士…?
そう思った瞬間、眉間にシワが寄り、胸がモヤモヤする。
男同士だから──というワケではない。
芸能界には、ゲイだという人だって、バイな人だっている。
モデルの先輩も、ゲイだ。
カミングアウトされた時は驚いたが、ただそれだけ。
別に、偏見や忌み嫌う気持ちはない。
奏が、高遠さんのモノだと思うと、モヤモヤする。
高遠さんが、奏に触れたと思うと、イライラする。
──なんで?
自分で自分の感情が分からない。
自分自身の気持ちに戸惑っていると、耳が奏の声を拾った。
「──か…ろ?」
「─え?」
小さな声だったので聞き取れずそう反応すると、今度は声のボリュームを上げた奏。
「男同士、気持ち…悪かった、だろ…?ごめんな…」
そう言いながらようやく顔を上げた奏。
その表情は、今にも泣きそうだった。
「ゴメン、嫌なもん見せて…ごめんな」
「…気持ち悪いなんて、思ってない」
俺は今にも泣きそうな奏に、そう告げた。
だけど奏は表情を暗くし、また俯いた。
「…眉間に、シワ…寄ってる…。顔も強張ってる…。無理、すんな」
「これは違っ!
本当に、気持ち悪いなんて思ってない。男同士に偏見もないし、無理してない」
俺がそう言うと、少しホッとする奏。
その表情に、ツキリ…と胸が痛む。
高遠さんとの仲を、そんなに否定されたくなかったのか…と。
「俺、知らなかったや…高遠さんとはただのビジネスパートナーだと思ってたから…。
恋人なら、そう言ってくれてたら」
「違うっ!」
良かったのに──そう続けようとした俺の言葉を、奏が遮った。
「肇は、アイツは、そんなんじゃないんだ」
「え?…だけど、さっき…」
直接見てはいないけど、あの声と、脱がされたズボンと下着。
それらが語るものは、何だっていうんだ。
そんな疑問を含めてじっと奏を見つめていると、はぁっと一息吐き出し、チラッと俺を見てつぶやいた。
「…俺、一人で、できないんだよ」
「え?」
「っだからっ!オナれねーのっ!」
半分ヤケ気味で叫んだ奏。
オナれない?なんだ、それ?
理解ができず首を傾げる俺。
そんな俺を見て苦笑いした奏。
それから奏が話してくれたのは、全然軽い話じゃなかった。
奏が14歳のときだったそうだ。
まだ両親と共に海外で過ごしていた。
母の公演が終了し、機材を運び出したりと世話しなくスタッフが動くなか、父と母は次の公演の打ち合わせがあり、事務所にいた。
いつものことなので、邪魔にならないよう、隅でゲームをしていた時。
肩をたたかれ、両親が呼んでいる、と連れられいく。
誰もいない廊下、事務所はこっちだったっけ?と疑い始めた、その時。
首に強い衝撃を受け、意識をなくす。
目が覚めれば、衣服を全て脱がされ、ベッドに鎖で繋がれていた。
軽いパニックになっていると、室内に誰かが入ってくる。
入ってきた人数は全部で5人。
全員男、しかし年齢は少年と呼べるような者から高齢と呼ばれるような者までバラバラ。
男たちは奏のと一定の距離を保つと、一様にズボンの前を寛げ、自分の性器を取り出した。
それから始まったのは、自慰。
自分をギラギラと見つめながら、男たちが次々と射精していく。
部屋に充満する、精液の臭い。
体が震え、呼吸が浅くなる。
何回か射精した男たちは、一度部屋から出て行った。
いつこっちに向かって手を伸ばしてくるのか恐怖と戦っていた奏は、男たちが出て行ったことに安堵する。
が、数時間した後、再び男たちが部屋に入ってきた。
次こそ、襲われる…そう唇を噛み締めていると、再び始まる自慰行為。
見つめる5人分の瞳。
そしてまた部屋を出ていく。
そして、また始まる。
レイプをされているわけじゃない。
だけど、宗教じみたこの行為に、頭がおかしくなりそうだった。
そして、また扉が開かれる。
あぁ、また始まるのか──そう思ったとき、聞こえた、声は。
「奏っ!!」
父と母の、もの。
ようやく、奏は助け出された。
「俺は丸二日間、監禁されてたらしい。犯人は、母のスタッフだった」
奏の語る過去に、俺は言葉が出なかった。
「主犯だったスタッフは、以前から俺を狙っていたらしい。
¨ミューズ(女神)¨として奉り、ミューズに精液を捧げる…なんて、意味のわからんカルト集団。
3度に渡り自慰行為をした後は、ミューズの体内に捧げるんだってさ。
警察や父さんと母さんたちが来てくれてなきゃ、俺は本格的にヤられてた」
ハハっと笑う奏。全然、笑い話じゃない。
「でも、あの集団の自慰行為が、俺の脳裏に焼き付いて離れないんだ。
俺の中で自慰行為は¨汚れた¨ものになった。自分でするなんて、怖い、汚いって」
そこで俺は気づいた。
奏の、自分の服の裾を握る手が、震えていることに。
それを見て、俺は胸がキュッとなった。
「母さんも父さんも、仕事を辞めるって言い出した。もう二度と、こんなめに合わせたくないって。
でも母さんにも父さんにも、辞めてほしくなかった。だから俺は、一人日本に行って、違う環境で過ごしてみたいって言ったんだ。
幸い父さんの弟がいたし、おじさんに言うとおいでって言ってくれたし。海外に比べて日本は治安がいいからさ。
おじさんもいるし、両親も安心すると思ったんだ」
そこまで話をした奏は、ようやくコーヒーに手を伸ばした。
俺も喉を潤すためにコーヒーを一口飲む。すでにそれは冷めていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
9 / 80