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君に、恋をした 1
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奏の家に住み始めてから、1ヶ月半。
仕事の合間をぬって歌のレッスンが進む中、とうとう映画の撮影に入った。
「今回の主役、¨ATSUSHI¨くんです!」
「よろしくお願いします!」
俺は共演者やスタッフに頭を下げる。
『君に、恋をした』
大学2年、ハタチを迎え、ただ毎日を過ごす朔(サク)。
言い寄る女に熱くもなれず、その目はいつもどこか冷めていた。
力を入れるのは、部活であるバスケのみ。
バスケをしている時は、熱くなれた。
そんな時、一人の女の子が目に映る。
大学の中庭、木製のベンチに座りイーゼルに向かって真剣な目つきで絵を描く女の子。
油彩画だろうか、手を絵の具で汚し、服にも所々飛んでいても気にせず、ただひたすら色をのせていく姿に、気がつけば魅入っていた。
いつも彼女が絵を描くのは中庭。その姿は異彩を放ち、近づくものはいない。
朔はその姿を見るのが、日課になりつつあった。
初めは見ているだけで良かったのに、だんだんと欲が出る。
君の瞳に、映りたい─と。
そんな時、いつものように中庭に行こうとした朔は、角を曲がった所で誰かと衝突する。
それは、いつも見ていた彼女。
初めて、彼女の瞳に朔が映った瞬間だった──。
というのが、映画のプロローグだ。
挨拶を一通りすませた後、撮影に入っていった。
他にも打ち合わせやインタビューの仕事をこなして、帰ってきたのは日付も代わる午前1時。
奏はすでに自室へ行っていた。
そのことに少しさみしさを感じながら俺もシャワーだけ浴びて、すぐベッドにもぐりこんだ。
翌朝。
今日は午後から映画の撮影。だから午前中に奏とのレッスンだ。
今は俺達は朝食を食べている。
「どーだった?撮影初日は」
「初めは緊張したんだけどさ。共演者もスタッフもいい人ばかりで。楽しいよ」
「そうか。頑張れよ」
「うん」
奏は微笑んで俺を見た後、コーヒーを一口飲んだ。
「あ、曲出来た。後で聴かせてやる」
「マジでっ?うわぁ、楽しみ!」
奏が作った曲。
嬉しくて顔が綻ぶ。
奏と二人、地下にあるピアノが置かれているだけの部屋に入る。
「まぁまずは曲からいくかぁ。よーく聴いとけよ?」
ニヤっと笑い、奏の指がピアノの鍵盤にかかる。
キレイな指だなぁと眺めていると、奏の指が鍵盤の上を滑らかに動き始めた。
奏でられるのは、綺麗なメロディ。
奏の髪がサラサラと揺れる。
そういえば、奏が一曲分の演奏をするのはこれが初めてだ。
俺は優しいメロディに聞き惚れ、揺れる奏に見とれた。
最後の一音を奏で終わり、部屋の中にピアノの音の余韻が残る。
ふぅ、と一息吐いた奏が、俺を見上げた。
「どうだ?」
半ば放心状態の俺。
奏が俺を呼ぶ声でハッとする。
「篤?」
「あっ、うん。すっげー…なんかちょっと感動した」
「んな大袈裟な」
「いや、マジで!あぁ~、なんか俺が歌うんだと思うと緊張する」
あんな綺麗なメロディの歌…俺が歌えんのかな…
そう思っていると、奏が拳で俺の腹を軽く叩いた。
「歌えるよ、お前は。絶対。¨想い¨があるなら」
歌に込める¨想い¨。
想いがある歌は、人に届く。
奏は、前にそう言った。
「んで、これは音源。暇があれば聞いてメロディを覚えろ」
渡されたのは、小型の音楽プレーヤー。
「曲入れといたから。誰にも聴かせんなよ?
発売前に曲が漏洩したらシャレになんないからな」
俺はコクコクと頷く。
「あ…じゃあ歌詞はまだなんだ?音源覚えた後?」
そう言うと、一瞬視線をさ迷わせた奏。
そして曖昧に笑った。
「いや…出来てるよ」
ホラ、と一枚の紙を渡される。
パソコンで作った、機械的な文字が並んでいると思いきや、それは手書きで書かれていた。
一番上にこの曲のタイトルが、奏の綺麗な字で書かれている。
『こいのうた』
俺は、奏が書いたその歌詞を、目で追っていく。
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