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恋人の存在 1
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撮影も順調に進み、今日は野外撮影。
俺演じる¨朔¨が、恋い焦がれる相手¨美羽¨と一緒のシーンだ。
美羽が絵を描くためにいつもいる場所に、朔がやってくる。
絵を描く美羽を見ているうちに、朔は気持ちが抑えきれなくなってくる。
そして美羽がこっちを見たとき、思わず気持ちを告げてしまう。
そんなシーンを大学内の中庭を借り、撮影中。
「熱いですねぇ」
リハーサル直前。
美羽役である須藤美咲(スドウミサキ)ちゃんが笑顔で声をかけてきた。
今注目を浴びている、新人女優。
癒し系と評判の彼女の笑みは雰囲気を明るくさせる。
けど、今はちょっと元気がない笑顔だった。
今は7月。
予想以上の猛暑ぶりで、役者を含めスタッフも汗がダラダラだ。
「本当。溶けそうだ」
「アハッ。分かりますー」
天然なのか、わざとなのか…少し舌足らずな話し方。
まぁ、顔はかなり可愛いし、許せる範囲なのかな?などと考えていると、リハーサルを開始する声がかかった。
それぞれの位置にスタンバイをし、リハーサルをこなす。
次は本番、その前にメイク直し、水分補給をして下さいと言われ、渡されたスポーツドリンクを喉に流し込む。
ペットボトルをスタッフに返したところで、ザワっとざわめく声がした。
声がした方を向くと、意外な人物と目が合う。
「へ…?え、奏…?」
そこには、俺に向かって手を挙げる奏がいた。
横には、社長が立っている。
本番はまだ始まらないようなので、俺は二人に近づいた。
「な、なんでいるの?」
「ん?葵に連れてこられた」
「篤が撮影してんの、見させてやろーと思ってな」
「そ、そう…」
それにしても、周りの視線がすごい。
社長が有名なのは、知ってる。
財閥の息子だし、こんなルックスしてるからなのか。
君の所の社長にはお世話になったよ、と言われることがやたら多い。
自分の所のタレントが出る映画だとはいえ、撮影を見に来る社長はあまりいないと思う。
だからみんな物珍し気に見ているんだろう。
だけど、それだけじゃない。
¨え、見たことないけど…タレント?¨
¨男…?女…?¨
¨うっわ、すごい美人…¨
などという囁きが至るところから聞こえる。
注目されているのは、奏も含めてらしい。
「ほら、本番だぞ?」
奏が俺の背中を叩き、行ってこい、と笑う。
「…うん。いってきます」
俺はドキドキする胸を抑えながら、元の位置に戻った。
うわ、奏が見てるとか緊張する。
そう思いながら、斜め前に座る美羽の横顔を見る。
思いが抑えきれずに、朔は告白してしまう。
もし、今ここにいるのが奏だったら。
俺は、どうやって、思いを──。
「用意…スタート!」
本番が始まる。
『ねぇ、美羽』
俺の言葉に顔を上げる美羽。
俺はじっとその目を見た。
好きだ。
好きなんだ。
君のことが。
だから、お願い。
気づいて、この想いに…。
『好きだ。』
『…え?』
お願い。
聞いて。
俺は、どうしようもなく──
『好きなんだ、美羽。君が、好きだ』
泣いてしまいそうなぐらい。
胸が痛くなるぐらい。
『好きだ──。』
想いよ、届け──…。
「カーット!」
その声にハッとする。
うわ、かなりのめり込んでたかも…。
…¨奏¨って言ってないよな…?
「今の、いいよー!ATSUSHIくん!
美羽に対する、朔の溢れんばかりの想いが伝わってきた!
笑顔の中に混じる切なさがまたいいっ」
どうやら、監督が納得するものだったらしい。
俺はホッとする。
奏が来てくれて良かったのかも。
「よし、15分休憩!」
監督の声に俺は立ち上がり、再び奏のもとへ。
「よー、篤。いい演技すんじゃねーか」
社長が俺の肩を叩いてくる。
「どもっす」
なんとなく、気恥ずかしい。
演じたわけじゃないし、奏本人に気持ちを伝えたわけじゃないけど、俺の中には奏の姿があったから。
そう思いながら、奏を見る。
「奏…?」
俺を見上げる奏はなんだか切なそうな顔をしていた。
「…へ?あ、いや。うん。いい演技だったな」
「…ありがと」
「切ない感じが伝わってきた。なんか、感情移入したかも」
奏が言った言葉に、だからあんな顔をしてたのかな?と納得する。
「じゃあもう帰るな」
「え、もう?」
「邪魔しちゃ悪いし。行くぞ、葵」
そう言って踵を返そうとした奏。
あすると背後から奏の名前を呼ぶ声がする。
「…奏、か?」
奏は声のした方を向くと、目を見開き驚きをあらわにした。
俺の後から聞こえた声に、振り向く。
そこには、共演者である梁瀬さんがいた。
そして今度は後から、つぶやく奏の声。
奏は、梁瀬さんを。
「龍一…」
呼び捨てに、した。
ツキン、と胸に痛みが走る。
だって、梁瀬さんは今40歳ぐらいなはずで。
俺よりも20歳も上で、奏よりも10歳上で。
そんな人を、呼び捨てにするなんて、よほど親しい仲だろう。
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