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恋人の存在 3
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え、俺なんか変なこと言った?
「お前は本当、スレてねぇな。ま、それがお前の魅力か。そのまんまでいろよ?」
「へ?あ、ハイ…」
「ほら、次インタビューだってよ。いってこい」
「あ、はい」
ヒラヒラと手を振る水瀬さんに、ペコッと頭を下げる。
映画についてインタビューを受け、今日の仕事は終了。
俺は橋本さんと共に車に乗り込み、事務所へと向かう。
事務所に着くと、社長が帰ってきたら来るように、という伝言をもらった。
橋本さんにお疲れさまでした、と挨拶をし、社長室へ向かう。
コンコン、とノックすると、中から返事がきた。
「社長、篤です。入ります」
社長室のドアを開け中に入ると、そこにいた人物に俺は固まる。
「…奏…?」
社長室の黒い皮張りのソファに寝転がる、奏。
「お疲れ。疲れついでにわりーんだけど、そいつ連れて帰ってくんね?」
「…なんで奏が…?」
「あー、一人で家にいたくないって言ってよ。しゃーねぇから連れてきたんだよ」
「…はぁ、そうですか」
俺は奏を揺する。
「奏。起きて」
が、微動だにしない。さっきよりも強めに揺する。
「奏?そーうー?」
え、本当に起きない。
「おーおー、グッスリだな」
社長が笑いながら奏の頭を撫でた。
その仕草が手慣れていて、なんだかムッとする。
「…じゃあ、帰ります」
俺は奏の背中と膝裏に手を回し、抱き上げた。
「お姫さまだっこか。やるな、篤」
からかうように言ってくる社長に軽く頭を下げ、社長室を後にする。
それにしても軽いな。
寝顔、さらに幼い。
駐車場に着き、なんとか助手席のドアを開けそっと奏を降ろす。
リクライニングをゆっくりと倒し、シートベルトをかける。
奏が起きる様子はない。
運転席に乗り込み、車を発進させ走りながら考えるのは、梁瀬さんと奏のこと。
梁瀬龍一。
押しも押されもしない、トップ俳優。
溢れる気品、洗練された身のこなし、そしてそこはかとなく漂う色気。
40歳を迎えてもなお若々しく、それでいてダンディーで世の女性を魅了してやまない。
正義のヒーローから闇にまみれた悪役まで、どんな役でもハマる演技力に誰もが引き込まれる。
俺自身、どれだけ梁瀬さんが演じた映画やドラマを見てきたことか。
そんな人が。
……奏の恋人だったんだ。
あの2人の雰囲気から、俺の中では恋人”疑惑”ではなくもう確信になっていた。
家につき、奏をリビングのソファに寝かせる。
車の中でも、運ぶ最中も一向に目を覚まさない奏。
あどけない寝顔に、ときめいてしまう。
だけど、この寝顔をあの人も眺めたことがあるのか……そう考えてしまい、醜い嫉妬心が沸いてくる。
「くそっ……はぁ」
悪態をつき、ため息がこぼれた。
「ん……」
「奏?」
身じろぎをして、薄くまぶたが開く。
視線をきょろきょろと動かし、俺で止めた。
「あ、つし……?え?……家?」
がバリと起き上がり、側に立つ俺を見上げ、なぜ家にいるのか分からない顔をしていた。
「社長から連絡あってね。連れて帰ってくれって」
「……そう、か」
視線を床に落とし、髪をかきあげた奏はバツが悪そうに眉間にシワを寄せた。
「あー…悪かったな。さんきゅ」
「…どーいたしまして」
そこで会話が途切れた。
奏は何やら一点を見つめ考え事をしているみたいだ。
俺は俺でモンモンとする感情が渦巻いていた。
聞きたい、けど聞けない。
知りたい、けど知りたくない。
沈黙を破ったのは、奏だった。
「今日悪かったな。突然行ったりして」
「え?あ、うん。別に……」
急にそう言われ、しどろもどろになる俺。
……この話の流れで聞いてしまおうか。
そう思って奏を見る。
すると、奏がふわっと笑った。
その笑顔がかわいくて、開きかけた口が閉じる。
「何か、かっこよかった。お前」
え。
「演技してるお前もいいな」
……そんな笑顔で、そんなことを言われたら、舞い上がるよ、俺。
「……ありがと」
お礼を言うと、目を細めて笑った奏は、風呂洗ってくる~、とリビングを出て行った。
……俺の心臓、ヤバいかも。
バクバク言ってる。
「あ~、もう」
渦巻いていた醜い嫉妬心が、奏の笑顔と言葉で薄らいだ。
ほんと、俺って単純……。
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