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デート 2
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「どしたの?」
「いや、なんかほんわかした人だなって。オカンみてー」
「あ、そうかも。
ここ、高校のときに初めてモデルの先輩に連れて来てもらったんだけどさ。
そん時、母さんがいたらこんな感じなのかなーって思った」
めちゃめちゃ気さくで、いきなり”あっちゃん”って呼んできて。
モデルだったら体が資本だから、栄養はしっかり取らなきゃダメ!とか、何事も楽しむのよ!とか、色々言ってたな。
なつかしー。
なんて思い出していたら、奏が少し気まずそうに俺を見ていた。
「奏?」
「いや、その…母親がいたらって……」
……あぁ、なんだ。
だからそんな顔してるんだ。
マズいこと言ったかなーって顔。
そんな奏に笑いかける。
「そーいや、俺の家族のことって話したことないね。
俺の母さんさ、俺が二歳の頃病気で死んじゃったんだ。
もともと心臓弱かったみたいで」
「……そうなのか」
「心臓弱いのに、5人も子供産んだ肝っ玉の持ち主なんだけどね」
「5人もっ?」
「そうそ。心臓破れるかと思った~とか言いながら、次々産んだって聞いた」
目をくりっとさせて驚いてる奏。その顔に笑っていると、おばちゃんがビールを運んできてくれた。
「はい、ビールと盛り合わせねー!しっかり食べるのよ!」
「はーい。ありがと、おばちゃん。まずは乾杯しよーよ、奏」
そう言って奏を見ると、まだ少し難しい顔。
「気にしないでよ。むしろ、聞いてもらえると嬉しいかな。自慢なんだ、母さんのこと」
それに、俺のこと知ってもらえるのは嬉しいし。
奏はじっと俺を見て、そしてやっと笑った。
「分かった」
「んじゃ、カンパーイ!」
「乾杯」
「肉焼くよー」
「おう」
ビールで喉を潤していると、お肉が焼けていく香ばしい匂いが漂い始めた。
「焼けたっぽい。はい、奏」
「さんきゅ。……んまっ!ナニコレ」
「それ、タンだよ。ここの分厚くてちょーウマいっしょ。
次、はい。これはハラミね」
「うわっ、これもうまっ」
本当に美味しそうに食べる奏。
良かった、気に入ってもらえたみたいだ。
肉を焼いては食べながら、話の続きをする。
「俺さ、一番末っ子なんだよね」
「あー、そんな感じする」
「そ?」
「うん。甘え慣れてるっつか、甘え上手って感じ。愛されて育ってるなーって思う」
「まー、上のにーちゃんねーちゃんに確かに甘やかされてたかな」
思い出して、クスリと笑みがこぼれた。
「上から兄、姉、姉、兄、俺なんだけどさ。すぐ上のにーちゃんと、ねーちゃんふたりは甘々だったかも。
一番上のにーちゃんは優しいけど、厳しかったんだ。厳しいっても、礼儀とかマナーとかに対してね」
「あーだから妙にしっかりしたトコあんのか、お前」
なんてしみじみ頷く。
しっかり……してるかなぁ?
自分じゃよく分かんないけど。
「そんで父さんは俺たちを養う為に頑張って働いてくれて、でもちゃんと学校の行事には参加してくれて。
俺、父さんの体が心配で言ったことあるんだ。”そんなに無理しなくていいよ”って。
そしたらさ、父さん言うんだ。
”無理してるんじゃなくて、父さんがやりたいだけなんだ。
母さんだってお前を、お前たちを無理して産んだんじゃない。欲しいから、産んだんだ。
そんな母さんを、父さんは尊敬してる。だって俺の宝物を5人も産んでくれた。
だから母さんの分まで、お前たちを幸せにしたいんだ”って」
「いい親父さんだな」
「……うん。
俺さ、そんな父さんをすげー尊敬してるし、自慢なんだ。そして、俺たちを産んでくれた母さんも。
にーちゃんもねーちゃんも。みんなが愛情をくれたから、全然寂しくなかったしね」
「そっか。なんか、お前のルーツが分かったわ」
「ルーツ?」
「あぁ。
礼儀正しくて素直で、男らしい面もあって筋通ってて。
どんな育ちをしたらお前みたいになんだろーとか思ってたけど、納得。
いい家族に囲まれてたからだな」
優しい表情でそう言った奏。
奏の言葉に嬉しくなる。
奏が言ってくれるような人間になれてるんだとしたら、それは確かに家族のおかげだと思うから。
「いいな、兄弟。うらやましい」
微笑ましそうな顔でぽつりともらす。
「奏はひとりっこだっけ」
「そうそ。俺兄貴が欲しかったんだよなー。
ちっせー頃さ、母親に”お兄ちゃん欲しい!”ってわめいたことあるらしくてさ。
”どーしたらお兄ちゃんできるの、俺も手伝うからお兄ちゃんつくって!”って」
ぶはっ!かわいい。
俺は思わず吹き出す。
「ハハッ!お兄ちゃんは無理だよねー。サスガに。
しかも手伝うって!お母さん困っただろうなー」
「だよなー。今でも笑い話のネタにされる」
「そーいや両親とは会ったりするの?」
奏の家に住み始めてから、奏が会いにいったことも、両親が来たこともない。
「昔はしょっちゅう会ってたけど今は年一回ぐらいかな」
「そうなんだ」
「そーゆうお前は?」
「俺は月一で実家帰ったりしてたよ。
今は仕事忙しくて帰れてないけど、映画の仕事が一段落したら帰るつもりしてる。
ま、電話はしょっちゅうしてるけどね。あとメールも。
メールはねー、絶対写真付なの。家族の顔見れると嬉しいからって我が家のルール」
携帯の画像フォルダ、家族写真でいっぱいだよ?
そう言うと、奏はホントに優しい笑顔で、
「やっぱお前の家族っていいわ。聞いてるだけで幸せになりそ」
なんて言ってくれたんだ。
「あー、食った食った!うまかったー。また来ようぜ!
ごちそーさん、ありがとな」
「どーいたしまして。気に入った?ならまた来よー」
奏が払うってくれたんだけど、今日は俺が払う!って押し切った。
ほら、やっぱカッコつけたいじゃん?
代行運転を呼び、パーキングまで歩く。
夜も11時を過ぎ、辺りは顔を赤らめた人が増えた。
奏の頬も、アルコールのせいで少し色づいてる。
「なんかお前とは家ばっかだから外出るのも新鮮だったな」
「んじゃまたデートしよーよ」
「アホか。デートじゃねっつの。んな事は好きな奴に言え」
だから言ってるんですけどね。と、心の中で言ってみる。
「また一緒に出かけようね」
「おう」
ニカっと笑いながら、隣を歩く奏。
楽しかったなー、今日。
俺も顔が緩んだ。
奏と二人並んで街を歩く。
「……奏…、……日野くん…」
そんな姿をひとつの視線が、捉えていた───。
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