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牽制 1
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「おはようございます!」
右を見ればどこまでも広がる、青々とした草原。左を見ても同じく。
そして振り返った先は生い茂った豊かな森林が。
上を見上げると綿菓子みたいなふわふわ真っ白い雲に、晴れやかな青空。
心洗われる大自然、ど真ん中。
ううーん、マイナスイオン大量発生だね。
心なしか、空気が美味しい気がする。
今俺がいるのは、都心部からだいぶ離れたとある高原。
セットの修理は10日程かかるらしく、当初の予定から大幅にスケジュールが変更されスタジオ撮影は後回し、先に屋外撮影となり、急遽この高原での撮影が入った。
「おはよう、篤くん」
「あ、おはよう美咲ちゃん」
俺たち”朔”と”美羽”は、大学のオリエンテーリングで野外活動をするために高原を訪れる。
告白はしたものの返事をもらっていないため、朔は再び美羽に告白をする、というシーンの撮影だ。
すぐに帰れる距離でもないので、泊まり込み撮影。
予定では、3日間。
俺の仕事のスケジュールも橋本さんが調整してくれた。
「なんか、こっちは暑さマシだねぇ」
「そうだね。あ、呼んでるっぽいな。行こ、美咲ちゃん」
美咲ちゃんと、スタッフが集まる場所へ足早に向かう。
撮影の順序や段取りを説明され、頭に入れていく。
「今日は主役二人のシーンを中心に。明日は梁瀬さんが合流するから、全体で。
じゃあ、あと三十分したら始めます」
スタッフがそれぞれ配置についていき、俺たちも衣装やメイクのチェックが入る。
撮影は順調に進み、気づけば夕方。
休憩に入り、夕食タイムだ。
ロケ弁をもらい、俺は外に出るためにドアに向かう。
「篤、どこ行くの?」
すれ違いざまに橋本さんに声をかけられ、外に出ることを告げる。
「朔の感情、掴みたいんで。いってきます」
外に出てしばらく歩く。
この辺で一番大きな木にもたれかかり、渡されたロケ弁を食べる。
だんだんと薄暗くなっていく空。
オレンジ色した太陽が沈んでいく。
……キレイだな。
夕焼けを見つめながら、弁当を食べ終えた。
横に置いてあった台本を手に取り、これから撮るシーンに目を通す。
思いつめた表情で夜空を見上げる美羽を見つけ、朔は胸が締め付けられる思いをする。
そんな美羽を抱きしめ、そしてもう一度告白をした朔。
美羽はなぜか涙を流す。
戸惑う朔。
やがて泣き止んだ美羽から告げられる事実。
美羽は難病を抱え、長くは生きられない……と。
美羽はなおも告げる。
本当は嬉しかった、なぜなら私もずっと朔が好きだった。
だから気持ちに答えたかった。
だけど私には未来がない。
そんな葛藤を繰り返していて、返事が曖昧になっていた。
でも、答えをハッキリさせなきゃ。
あなたの気持ちには応えない。
朔は、私じゃない人と幸せになって……と。
「長くは生きられない人との恋……か」
好きになってしまった人が、いなくなってしまう未来。
悲しい、結末。
俺は目を閉じて、深く息を吐いた。
「用意……スタート!」
星が瞬く夜。
さぁっと風が吹き抜けた。
『私には、未来がないから……。朔は私じゃない人と……幸せになって』
儚い笑顔。
美羽の瞳からひとつぶ、涙が頬をつたっていった。
悲しい、未来。
ほんとに、そうなのかな。
『……美羽』
朔は美羽の頬をそっと撫で、そして真っ直ぐに美羽の瞳を見つめる。
『美羽。未来は、ない……?……未来なら、あるよ。
あした、あさって、しあさって。ううん、一時間、一分、一秒だって、”今”からしたら”未来”だ』
朔は、生半可な気持ちで美羽を想ってるわけじゃない。
もし、俺だったら?
もし、奏がいなくなってしまう未来があったら。
『美羽。俺は、美羽と幸せを分け合いたい。今、お前といたいんだよ』
俺だって、そう言う。
今の溢れる気持ちを、大事にしたいから。
『だから、美羽。俺の手を取って。
一緒に未来を──歩こう』
美羽は目を見開き、そして顔がくしゃっと崩れる。
瞳からボロボロと涙が零れていく。
『さ、く……っ、うん……うんっ……!』
美羽は朔の手を取る。
朔は、力強く……美羽を抱きしめた。
二人の姿を、三日月が優しく見守っていたーーー。
「カーット!」
抱きしめていた腕を離し、美咲ちゃんの顔を覗き込む。
「大丈夫?」
美咲ちゃんの瞳から、次々と溢れて止まらない涙。
「あは。ちょっと役に感情移入しちゃった~。止まんなーい」
美咲ちゃんはマネージャーさんに連れられて、場を離れた。
おそらく、目を冷やしにいったんだろう。
美咲ちゃんは、それだけ役に入り込んでいたってゆーことだ。
……俺も。
自分の手を見つめる。
”美羽”を抱きしめていた腕が……震えてる。
そう遠くない未来に訪れるであろう、死。
支えきれるのか……。
渦巻く不安、焦燥、恐怖。
だけど、それ以上に”美羽”を愛しく思う気持ち。
大きく深呼吸をして気持ちを落ち着けた。
と、そこに監督から声がかかる。
「篤くん。今の良かったよ。
美咲ちゃんもね。文句なし、一発OK!」
「わ、本当ですかっ!ありがとうございます!」
監督の言葉に俺は嬉しくなり、勢い良く頭を下げた。
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