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「んーちょっと濃いめにしよっかぁ。大丈夫、隠れる隠れる!」
「すいません……」
「アツシくん、最近大忙しだもんねー。ちゃんと寝てる?」
メンズブランドの洋服のCM撮影。
今メイクをしてもらっている最中なんだけど…目の下にうっすら残るクマ。
原因は、分かりきってる。
はぁ…駄目だな、俺。
「よし、おっけ!完璧だよー」
ところどころはねたようにセットされた髪の毛。
クマはなくなっていた。
「ありがとうございます」
「撮影頑張ってね!」
「はい」
せめて、撮影はキメなきゃ。
「じゃぁ、説明した通りにお願いね」
「わかりました」
一人暮らしの部屋のセット内。
パジャマ姿の俺は、クローゼットの前に立ち、スタートの声を待つ。
「用意…スタート!」
クローゼットを開け、次々と服を取り出し、鏡を見ながら自分にあてていく。
やがてクローゼットが空になったところで、いったんカットの声がかかった。
チェックが入り、これは一発オッケー。
衣装とメイクチェンジのため、控え室へ戻った。
衣装をパジャマからグレーのジャケット、黒のパンツに着替えた。
髪も無造作にセットされ、再びカメラの前に立つ。
足を肩幅に開き、鏡の前でポーズを決める。
ベッドに腰掛けたり、振り返ったり……色々なポジションで撮ったあと、再び衣装チェンジ。
衣装を5パターン変え、そのたびに色んな動きで撮っていく。
間に少し休憩をはさみ、やがて全て撮り終え、時間を見ると午後三時を過ぎたあたりだった。
「予定より早く終わったね。お疲れさま」
「お疲れさまでした!ありがとうございました。
CMの完成、楽しみにしてます!」
スタッフやブランドメーカーの人にも挨拶をして、場を後にする。
ショーの打ち合わせは4時からだから間に合いそうだ。
橋本さんが運転してくれる車の後ろに乗り込み、横になる。
「ごめん、寝てもいい?着いたら、起こして」
「うん」
打ち合わせの最中にボーッとするわけにはいかない、少し寝なきゃ。
体は睡眠を欲していたのか、俺はすぐに眠りについた。
「じゃあ、当日はよろしくね」
「はいっ!よろしくお願いします!」
打ち合わせも無事終了し、今日の仕事はこれで終了。
橋本さんと共に事務所に戻り、橋本さんを降ろしたあと俺はすぐさま家に向かって車を飛ばした。
9時、か。……奏、いるよね?
車を停めて、家の中に入る。
あ……ある。
目に映るカーキ色のスニーカー。
リビングから漏れる灯り。
一度深く息を吐き、ドアを開けた。
「おかえり、篤」
奏はソファに座っていた。
「……ただいま」
鞄をテーブルに置き、奏のもとへ向かう。
……やっぱり。
奏は、こっちを見ようとしない。
「篤、座れ」
奏は向かいのソファを指差した。
言われるがままに座る。
二人の間に、静けさが訪れる。
どう話しを切り出そうか……そう考えていると、先に奏が話しを切り出した。
「篤、これ」
渡されたのは、一枚のCD。
「お前の歌。できたから。それ、第一号」
「え!そうなの?」
出来上がったCDをマジマジと見る。
何のプリントもされていない、真っ白いディスク。
出来たんだ……すげぇ。
「ありがとう、奏。すげー嬉しい」
「ん」
……聞きたいこと、いっぱいある。
よし、今聞こう……!
そう思ってCDから奏へと視線を移す。
あ………。
久しぶりに、奏と視線が合った。
奏は、真っ直ぐと俺を見てきた。
なんだか、その奏の表情が、変に見えるのは……気のせい……?
「……あの、」
「これで、同居解消だな」
奏、と続けようとした俺の言葉は、奏の言葉にかき消された。
「──え?」
言われた言葉の理解が遅れる。
「こうやって無事歌も出来上がったわけだし」
──そうだ。
俺がここに来たのは、ここに住み始めた理由は、奏に特訓してもらうため……。
……そう、だよね。
俺が、ここにいる理由は、ないんだ。
……でも、でもね、奏。
俺は……
「あのさ。
なるべく急いで出ていってくんねぇ?」
少しバツの悪そうに、そしてどこか表情を固くして、奏は続ける。
「……恋人に…変な誤解されたくないからさ」
────え…?
今、奏は、なんて言った……?
「こ、いびと……?」
奏は立ち上がり、俺に背を向ける。
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