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存在 3
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俺は奏の背中を見つめた。
「龍一と、ヨリ戻したんだ」
───りゅういち……って、梁瀬、さん……
「なんで……、だって奏は、未練ないって……」
そう言ってたじゃん、あの時。
「そう思ってたんだけどさ。
偶然再会して、俺をまだ好きだって言ってきてな。
最初は戸惑ったんだけど、アイツ信じてくれって。
俺のために変わるからってさ。だから、もっかい付き合うことにした」
イヤだ、イヤだよ、奏。
「……それって、奏に気持ちはあるの?」
パタン………部屋のドアが閉まる音が、響いた。
ふらふら、とベッドに寄り、倒れ込む。
──あぁ。
早く……荷造りしなきゃ。
早く、出て行かなきゃ。
『奏に気持ちはあるの?』
そんなこと、聞かなきゃよかった。
そんなことより他に、たくさん聞きたいことあったはずなのに。
なんで、ずっと目を反らしてたの?
なんで、謝ったの?
なんで、許してなんて言ったの?
梁瀬さんに未練はないってキッパリ言ったのに、付き合うことにしたから?
意味わかんない。
そうだったら、そんなの、なんで俺に謝るんだよ、許してなんて言うんだよ。
なんで、なんで。
──キスなんてしたんだよ。
言いたかったことが、あった。
伝えたい気持ちが、あった。
言えばよかった。
伝えればよかった。
今までに、そんなチャンスはいくらでもあったのに。
たとえ奏が、俺の気持ちに答えられなくても──知っておいてほしかったのに。
もう──言えない、伝えれない。
もう、遅いんだ。
その2日後、俺は荷物をまとめた。
奏は、玄関の外まで見送りに出てきてくれた。
ホントは、奏の顔を見るのは辛かった。
奏と俺をつなぐものは、なにもない。
奏にとって俺は”商品”で。
──もう作り終わっちゃったから。
奏に会うのは、もしかしたら最後かもしんない。
だからせめて、笑って別れたいじゃん。
「ありがとう、奏。本当に、色んなこと教えてもらった」
歌だけじゃない。
こんなに気持ちを揺さぶられるほどの”好き”も。
「今まで、お世話になりました」
頭を下げる。
「なんだよ、かしこまって」
ハハッと笑う奏。
奏の笑う声は、久しぶりかもしんない。
嬉しいんだけど、どこか哀しい。
俺が出て行くことを、寂しがってほしい、なんて。
──バカかな。
「お前が来て、楽しかったよ。これからも応援してる。
頑張れよ」
楽しかった──そっか。
「俺も、楽しかったよ。ありがとう。頑張る」
俺は運転席に乗り込む。
そしてそばに立つ奏を見た。
「じゃあね、奏」
「あぁ」
エンジンをかけ、アクセルを踏む。
バックミラーの中の奏の姿が、だんだん小さくなる。
そして……奏の姿は消えた。
「ただいま…」
久々に帰ってきた、自分の家。
静まり返る部屋。辺りを見渡す。
──おかしいな。
前までは、ここが俺の城だったはずなのに。
どうして、違和感を覚えるんだろう。
『おかえりー、篤』
『篤、手伝え』
『篤、映画観ようぜ』
『篤!』
『篤?』
『篤…』
──奏が、いない。
その日から奏の存在が、俺の生活から消えた。
俺の心に、存在を残したまま──……。
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