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揺れる感情 2
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「はぁ…」
家に帰ってきて、俺はソファに倒れこむ。
9月に入って、あの歌が有線で流れ出した。
想像以上の反響で、いつ発売するのか、映画の公開はいつか、問い合わせが殺到しているみたいだ。
仕事先でも、みんな、いい歌だね、いい声してるね、映画見に行くね、と声をかけてもらった。
仕事も次々と舞い込み、充実した日々。
…充実した日々、のはずなのに。
どこか、満たされない毎日。
原因は分かり切ってる。
奏が、いない。
喜びを分かち合いたいのに。
新しい仕事を報告したいのに。
──奏が、いない。
奏の家を出て、半月以上が経った。
その間、一度も連絡をとってない。
奏、奏。
──会いたいよ。
朝起きたとき。
家を出るとき。
家に帰ってきたとき。
ご飯を食べるとき。
お風呂に入るとき。
寝るとき。
いつだって、思い出すのは奏のこと。
「あーー…行きたくないなぁ」
さっき聞いた、映画の打ち上げパーティー。
一週間後の、金曜日の夜。
個人的な感情で、欠席するわけにはいかない。
だけど、あの人に会いたくない。
あーあ。
俺って、こんな弱かったんだ…。
自分の情けなさと女々しさに、ため息がこぼれた。
「「「かんぱーいっ!!」」」
金曜日の夜。
レストランを借り切って、映画の打ち上げが行われた。
「アツシくん、歌聴いたよー!すっごいよかった!」
「美咲ちゃん、ありがとう」
久々に会った美咲ちゃんが、歌の感想を言ってくれた。
それに他の共演者さんやスタッフさんも、会話に入ってくる。
「作ったの、あの“KANADE”でしょー。すごいよね」
「アツシくんは会ったの?“KANADE”に」
奏の話題に、少し言葉につまってしまった。
「…いえ、向こうのマネージャーを通してだったんで…会ってないんです」
「そうなんだ。気になるよね~、どんな人物なのか」
すごく、かわいい人ですよ。
そして、男前です。
なんて、心の中でつぶやいた。
「梁瀬さん、遅いなー」
美咲ちゃんが少しつまらなそうに、つぶやく。
仕事が押しているらしく、梁瀬さんはまだ来ていなかった。
「今日は来れないのかなぁ」
美咲ちゃんは、本当に梁瀬さんが好きみたいで。
少し、気まずい。
俺は明日、大事な撮影があるため、一次会のみに参加。
梁瀬さんは結局、俺がいるときには来なかった。
美咲ちゃんに悪いな、と思いつつも……ホッとする、俺がいた。
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