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届きますように 2
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「それではピックアップアーティストのコーナーです。
今回のゲストは、今、最も世間の注目を集めている方…話題のあの曲をテレビ初披露してくださる、“ATSUSHI”さんです」
「みなさん、こんばんは。“ATSUSHI”です」
司会であるアナウンサーから紹介され、カメラに向かって挨拶をする。
何もかも、初めての世界。
今回の曲のことについて質問を受け、それに答えていく。
そして、いよいよ…この瞬間がやってきた。
スタンバイを促され、ステージに立つ。
深く息を吸って、吐く。
奏はスタジオには来ずに、控え室のテレビで見てると言った。
『お前のいちファンとして、見てるから』
きっと今奏は、テレビを通して俺を見てる。
「それでは歌っていただきましょう。
まもなく公開する映画の主題歌、テレビ初披露です。
“ATSUSHI”さんで『こいのうた』」
ピアノの伴奏で、曲が始まる。
俺は目を閉じ…愛しい人を、想う。
そして、俺は、歌いだした。
ねぇ、奏。
この歌を作ってるとき。
たくさんたくさん。
俺のことを考えてくれた?
俺さ。
初めてこの歌の歌詞を読んだとき。
すげー“想い”が伝わってくるって、胸がドキドキしたんだ。
俺も、こんなふうに誰かを想いたい。
俺も、こんなふうに誰かに想われたい。
歌詞にもあるように。
好きなったらさ。
知りたくなって。
会いたくなって。
切なくなって。
欲深くなって。
恋って、いろんな感情が駆け巡る。
そんな揺さぶられるような感情を、ぶつけられたい、ぶつけてみたい。
この歌詞、俺の想いでもあるんだって。
そう思ったんだ。
だから。
この歌が、奏からのラブレターだって教えてもらったとき。
俺、実は泣きそうになった。
奏がこんなふうに想っていてくれたなんて、マジで嬉しくて。
ねぇ、奏。
届けてくれて、ありがとう。
奏。
次は、俺の想い。
届いてますか。
あなたのもとに。
一音、一音。
一語、一語。
大切に、心を込めて。
そして最後の一音を奏で終えた。
その、瞬間。
割れんばかりの拍手が、響いた。
俺は頭を下げてからステージを降りて、案内された席へと戻る。
やがて放送終了を迎え、他のアーティストさんたちから、良かったよ、いい歌だね、いい声してるね、と声をかけてもらえた。
一人一人に丁寧に感謝の言葉と一礼をして、俺も控え室に戻る。
ドアの前に立ち、ひとつ深呼吸してから、ドアを開けた。
「おかえり」
椅子に座った奏は、俺をみてふわりと笑った。
「…ただいま」
俺はふらふらと奏の前まで行って、奏を見下ろした。
「ん」
奏が自分が座る横をトントンっと叩いたのでそこに座ると、横からぎゅっと抱きしめられた。
「篤…。…ありがとな」
「…届いた…?」
「うん。胸に、真っ直ぐ届いた」
「…よかった」
届いた。
はぁ。緊張した。
だけど…うん。
すげー気持ちよかった。
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