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試写会 2
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「…いい度胸だな」
そう言って俺に一歩近づいたかと思うと、梁瀬さんの左手が俺の右肩を掴んだ。
そして俺の耳元で、吐き捨てるように、言う。
「潰してやる。後悔するといい」
いつもの穏やかな物言いとはまったく違う、低い声。
だけどそれに怯まず、言葉を返そうとした、その瞬間。
「あぁ、篤。ここにいたのか。
あれ、梁瀬さん。どうかしましたか?」
俺たち二人の雰囲気を気にもしない、あっけらかんとした聞き覚えのある声が俺の左側から聞こえた。
声のするほうに顔を向けると、想像通りの人物が顔に笑顔を携えて立っていた。
「社長」
梁瀬さんは社長の存在に気づいた途端、肩から手を離し、俺から距離を取った。
「一色くん、か」
「二人で何を?あ、篤が何かしましたかね?」
「いや、肩にゴミがついていたから、払ってあげただけだよ」
さっきまでの殺伐とした雰囲気を消し、いつもの柔和な笑みを浮かべて飄々とそう話す梁瀬さん。
……すげ。
あまりの変わり身の速さに逆に感心。
「そうでしたか。
あ、梁瀬さん。この度は篤がお世話になりました。
梁瀬さんの演技を間近で拝見できて、勉強になったと思います。
な、篤」
笑顔で振り向かれ、なんとなくこの話の流れに乗っといたほうがいい気がして、俺はそうですね、と頷く。
「日野くんの演技もなかなかのものだったよ」
「そう言っていただけるなんて嬉しい限りです。
篤は今、我が事務所が一番期待をしている奴でしてね。これからの成長が楽しみなんです。
梁瀬さんも、こいつのこれからを見てやってください」
「そうだね。期待しているよ」
建前の応酬だな、すげぇ。
次々と繰り広げられる会話に、変に感心してしまう。
「あ、篤。お前に取材したいって雑誌社があんだよ。
すいません、梁瀬さん。これで失礼させていただきますね」
「あぁ、かまわないよ。それじゃあ、また」
社長に続いて、俺も一礼をする。
社長にうながされこの場を後にしようと一歩踏み出したとき、社長が、あ。と足を止めた。
そして振り返り、俺たちに背を向けて歩き出していた梁瀬さんを呼び止める。
社長は振り向いた梁瀬さんに近寄り、耳元で何かを告げた。
その瞬間、梁瀬さんの表情がピシッと凍りついたように、見えた。
……なに言ったんだ?社長……
「では、これで」
ふっと満足そうに笑った社長は、固まる梁瀬さんをそのままに俺のとこまでやって来て、行くぞ、と俺の肩を叩いた。
社長にうながされるまま歩いてきたのは、休憩場所になっている、大きめの控え室。
そこには誰の姿もなかった。
椅子にどかりと座った社長は、スーツのポケットからタバコを取り出し、銀色のジッポで火をつけて、ふーっと煙を吐き出す。
「雑誌社の方が来るんじゃないんですか?」
寛ぎモードな社長に少し呆れた視線を向けるも、社長はあっけらかんと。
「あーあれ、嘘」
「は?」
「あっこから去る口実にしただけ」
「…そーですか」
「しっかしお前…しっかり絡まれてやんの。ウケるー」
ま、絶対絡んでくるとは思ってたけど。あの人ねちっこいから。
なんてけらけらと笑った。
楽しそうな社長の姿にため息を吐いて、社長の向かい側の椅子に座る。
「だけどさ、案外好戦的な性格してたんだな、お前って」
「へ?」
「いやー、てっきり下手に出て流すのかと思ったら、挑発とかしちゃって」
「……まずかった、ですかね」
と、すこーし不安になる。
いやまぁ、もうやっちゃったもんは取り返しつかないんだけど。
「いやぁ?別に。むしろよくやった!って感じ?聞いてておもしろかったし」
「いつからいたんですか」
「んー、『敵に回したいのかな?』あたりから」
いやいや、それってもう最初からですよね。
「っつか、お前らが俺のいるとこに近づいてきたんだよ。
俺、すぐそばの柱の反対側にいたし」
社長がいたらしいその場所は、俺たちからみて死角だった。
「やっぱ絡まれたよーとか思ってすぐ出て行こうとしたら、梁瀬のその台詞だろー。
俺、思わず笑いそうになってさ。出るに出れんかったわ」
まぁ確かに呆れる台詞ではあったけど。ってか、梁瀬って。呼び捨てだし。
「一方的に梁瀬が話し続けてるし、お前は黙ったまんまだし、俺も笑いおさまったし、出ていくか!ってときにお前の反撃だろー。
ツボッたね。マジで。もー笑い出すの堪えんので大変だったつの」
どうやら社長はよっぽどおもしろかったらしい。
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