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「葵っ」
目の前にあったドアをバンっ!と勢い良く開けて、中に駆け込む。
そしてデスクに踏ん反り返っていた葵に突進した。
「どしたあ?んなにあわてて。
珍しいなぁお前がここに来るなんて…お?」
葵が座るデスクに乗り出した俺を見て、体を引く葵。
そんな葵にかまわず、叫ぶ。
「お前っ、知ってるっ?
ほら、あの、今アクアの広告モデルしてる奴っ!」
すると葵は、あぁ、と納得するような仕草をして。
「アクア?知ってるもなにも…うちの奴だけど」
うち?うち……って!
それが意味するものに、興奮を覚えた。
「ここのモデルなのかっ?」
「あぁ。ATSUSHIってんだけど。なに、どーしたわけ?」
あつし……。
「本名はっ?」
「は?日野篤だけど…。んだよ、マジに。どーした?」
ひのあつし、ひのあつし、ひのあつし……。
葵の問いかけは耳を通過することもなく流れていく。
ただ頭にあるのは。
まぶたによみがえる、あの笑顔、あの瞳。
どく、どく、どく…心臓が高鳴る。
こんな風になるなんて、初めてだ。
「俺…一目惚れした」
ポロリと思わず飛び出た言葉。
「は…?」
もらした一言に、ポカンとした顔の葵が視界に入った気がした。
それからというもの、日野篤がうつってるものすべてに、目がいった。
何気に見てたテレビ、ある洋服ブランドのCMに日野篤が出てて。
その声に、ますます惹かれた。
あぁ、いつかこの声に自分が作った歌を歌ってほしい。
そんなことまで考えた。
葵も肇も聖夜もそんな俺の姿に驚いてた。
無理もない、俺が誰かにこんなに関心を示したのは初めてだったから。
いつも斜めに構えて、適当に付き合ってた。
そんな自分が、少しキライだった。
口には出さなかったけど、みんなが羨ましかった。
まわりの奴らは、本気で好きなヤツを見つけてたから。
肇と葵、聖夜と隆盛先輩、他にも。
みんな絆が強くて、信頼しあってて。
相手の前じゃ、心の底から気を許した顔を見せる。
そんな唯一の相手がいることに、いつも眩しい思いをしてた。
だけど、自分にはそんな相手は現れなくて。
あぁ、俺には縁のないことなのかもしれない、なんて諦めてたんだ。
日野篤がその相手になるかなんて、わからない。
だって俺たちはまだ出会ってもないんだから。
それに、日野篤が男を相手にする確率は低いだろう。
葵がおそらくノーマルだろうって言ってたし。
葵が俺のために日野篤に会わしてやるって言ったけど、いいやと断った。
今はただ、眺めてるだけでいい。
なんて言ったけど、本音を言えば自信がなかったんだ。
だって、ノーマルが男を相手にするなんて、確率は限りなく低い。
まだこの想いを否定されたくなかっただけ。
女々しいなぁなんて、情けなくなったけど。
しょうがない、好きなんだから。
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