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日野篤を目で追う日々。
写真や映像だけで満足できるはずもなく、次第に″会ってみたい″という欲求がわく。
だけど、やっぱり自信がなくて。
そんなうだうだした自分が、情けない。
20も後半にさしかかった大人がなにやってんだか、と何回ため息をついたのか。
そして気がつけば三年、なんてビックリするぐらいの月日が流れてた。
葵も肇も聖夜も呆れ顔だ。
そんな、ある日。
昼飯も食べ終わり、やることもなくソファでゴロゴロしてた俺に、葵から電話がかかってきた。
日野篤に、ある″仕事″の話が持ち上がっている、と意味深に発言しだす。
なんだよ、と聞く耳半分だったんだけど……葵の知らせは、俺を動揺と興奮させるものだった。
日野篤が映画の主演に抜擢、しかもなんと本人に主題歌を歌わせるとのこと。
そして作曲を誰に依頼するか検討中だと。
「やれよ、奏。仕事としてなら、会う決心もつくだろ?」
それに、と葵は続ける。
「篤に歌わせるチャンスだぜ?お前の歌。このままだと、他の奴が作った歌、歌っちまうぜ」
日野篤に歌ってほしい。それは、俺の望み。
葵からの電話の後、俺はすぐ肇に連絡を取った。
「日野篤に曲を提供する。話つけとけ」
すると肇は軽く笑い、了解、と電話を切った。
自分で言うのもなんだが、俺の作る歌は誰もが欲しがる。
″KANADE″から曲を提供する、って言うんだから、断ることはないだろう。
……日野篤に、会える。
その日は気分が高ぶって、寝れなかった。
日野篤に曲を提供することが正式に決まり、そわそわと過ごす毎日。
1日、1日、日野篤と対面を果たす日が近づいてくる。
そんなある日葵が、″どうも篤、歌うことに不安があるらしい″とこぼした。
まぁ確かに、歌に関しては素人だし、無理もない。
でも日野篤には自信を持って歌ってもらいたい。
だっていい声を持ってるんだから。
そう思った俺は葵に、俺が日野篤を預かって歌の指導をする、と提案する。
「へぇ、ほぉ、ふーん。″KANADE″自らねぇ」
提案を聞いてニヤリとする葵。
「…なんだよ、悪いのか?」
「いやぁ?大先生に教えていただけるなんて光栄です」
ニヤニヤ笑う葵にムカついて、とりあえず殴っておいた。
まぁそんなワケで日野篤をウチで預かることになったんだけど……大丈夫か?俺…。
うまく立ち回れるか不安もあるけど、それよりも日野篤がこの家に来ることに嬉しさを隠せない俺がいた。
お前が指導すること、本人には契約を交わす日に奏から直接伝えろよ、と言われたので、その日を待つ日々。
もうすぐ会える、と心待ちにしていた俺に、神様のイタズラなのか思いもしないハプニングが俺を襲った。
それは、よく利用する大型書店でのこと。
……っく!届かねぇ!
嫌がらせか!
運転禁止令が出されてる俺は、肇に頼んで家から車で15分のところにある大型書店へ連れてきてもらった。
この本屋は品数が充実してて、欲しい本が待たずに手に入るからお気に入りだ。
欲しい本をどんどん手に持ち、持ちきれずカウンターに預け、次に向かった音楽関連のコーナー。
そこで前に見た映画で流れてた劇中歌の楽譜を発見。
コレ、すんげぇ綺麗なメロディで好きなんだよなぁ。
ようやく発見だぜ!
と、その本に手を伸ばす…も。
あともうちょっとのとこで届かない。
肇なら余裕で届く高さ。
でも肇は仕事の電話があるとかで車で待機中。
ちっ。使えねー。
くぅ~っあともうちょいなのにっ……と精一杯腕を伸ばしていると、横からニョキッと腕が伸びてきて、俺が欲しい本を本棚から抜きとった。
ん?肇か?
そう思った俺は、何の気もなしに横を向いた。んだけど。
―――――え。
おそらく、俺の口はポカンと開いて、間抜けな面をしていたと思う。
な、なな…なんで…っ!
日野篤がここにっ?!
雑誌の中、画面の中。
ずっと見続けてた人物が、今…目の前にいる。
うっそぉ…。
お、落ち着け、俺。慌てんな。ど、どうするよ、俺。
自己紹介か?いやいや、いきなりそれはないだろ。
と、とりあえず…本!そうだ、本を回収!
声、震えんなよ。
「ソレ。取ってくれたんじゃねーの?」
って、もうちょい愛想のいい言い方できねーか!俺!
と心の中で葛藤。
目の前の人物、日野篤の反応といやぁ…ん?
なんでそんな不思議そうな顔してんだ…?
もしかして、日野篤もその本欲しいとか?
だめだめっ。だめだぞ。それ、ずっと探してたんだから!
「ソレ。なに?違うわけ?
俺が取ろうとしたの分かった上で横取りすんのか?」
だぁから言い方!
俺にツンの属性はなかったはずだ!
またしても心の葛藤が始まった俺に、日野篤は違う、と本を渡してくれた。
なんだ、やっぱ見かねて本取ってくれたのか。
用事はこれで済んだ。
礼を言って去るところ…なんだけど。
俺はたいして欲しくもない、隣の棚にある本を日野篤に取ってくれ、と願い出る。
日野篤は断ることもなく、ヒョイッと本を取って渡してくれた。
…っつか、何してんだ俺。
早く去れ!
礼を言って、その場からすばやく去る。
コーナーを曲がった所で止まり、深く息を吐いた。
「……っ、」
なんだ、コレ。
心臓ばくばく、手ぇ震えてる。
はっ。
乙女かっての。
自分に呆れながらも、さっきまで目の前にいた本物を思い出す。
……だめだ、写真や画面の中よりかっこいいじゃねーか…っ。
つーか、何でここにいんだよ!
今まで一回も見かけたことねーのに、まさかこんなとこで…。
動揺しまくりで、変な態度取っちまったし…最悪。
少し落ち込みながら、レジに向かった。
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