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レジで会計をしてもらう間、俺はさっきの態度を猛烈反省中。
俺、動揺するとツンになんだな…知らなかった。
なんて新たな自分を発見して何になる。
…もうちょい…話したかったなぁ。
日野篤に取ってもらった、たいして欲しくもない本がレジに通されるのを眺める。
あそこでもう一冊取ってもらった俺の行動は、もう少し話してみたくて無意識に出たもの。
あーあ。
いい大人が何やってんのかね、まったく。
カードで支払いを済ませ、両手に大量の本を持ち、車が停まってある駐車場に向かう。
あー重た。買いすぎたか?
よし、肇に家の中まで持ってこさせよう。
なんて思っていたのに。
……おい、何で車がねーんだよ!
本を地面に置き、ポケットから携帯を取り出す。
お?肇から電話かかってら。
かけなおすが……なんで出ない。
くっそ、肇のやろう!
どこ行った!
と、そこに着信。相手は肇。
「肇っ?お前どこにいんだよっ?」
『悪い、運転中だった。レーベルの社長から呼び出しがあってな』
「あぁっ?呼び出されただと?」
『あぁ。急用らしい』
んじゃ何か!くっそ重てぇ本持って電車で帰れってか!
しかも急用だと?どーせ肇に会いたいだけだろぉが!あんのくそ社長!
いつもくだんねーことで肇よびつけやがって!
なんてわめいても、悪いな、と一言残して通話終了。
あっ、こら!バカ遠めっ。
切られた携帯を眺め、舌打ちひとつ。
あーあ。電車で帰るか…誰か呼ぶか。
聖夜?葵?……仕事中だわな。
あー電車で帰るしかねーか…。
なんてうなだれてる俺の横を、通り過ぎる人物。
その時の俺は、きっとどうにかしてた。
後で考えたら、なんだあの行動は!と猛烈に反省モンだった。
俺のとっさの呼びかけに反応した日野篤に、心の中で今度は愛想良く、愛想良く、と唱え、自宅へ送れと願い出るなんて。
そんな突拍子もない願いに、なぜか日野篤はすんなりオッケーしてくれて、逆に驚いた。
そっからはなんかもう必死だった。
平常心、平常心、日野篤は商品だ!
と呪文でも唱えるがのごとく繰り返し自分に言い聞かせ、送ってくれた礼とばかりに飯を作って、そして自分は何者かを明かす。
えらく驚いた日野篤を前に、何とか平常心を保とうと必死で。
意地でも焦ったところも見せまいと会話を繰り出したけど。
自分で思い描いていた初対面とはかけ離れたこのめちゃくちゃさにやっぱりいっぱいいっぱいで。
これ以上一緒にいたらボロが出る!とその日は早々に日野篤を追い返してしまった。
その日は自分の怪しすぎる行動と必死さに呆れ返るばかりで、情けなくて。
次に会ったときにはもっと普通でいられるように、一度この気持ちを落ち着かせよう、と自分に言い聞かせることにした。
まずは仕事だ、半端な事は出来ない。
恋に浮かれてなんていられない。
生ぬるい仕事をするなんて、プライドが許さない。
そう、この気持ちは、蓋をしなきゃいけないんだ。
「篤ー、飯なんにする?」
「う~ん…あ、唐揚げ食いたいかも」
「んじゃ唐揚げにするか」
篤がこの家に住み始め、初めはやっぱり戸惑いはあったものの、篤の人懐っこさもあり俺は普通に過ごすようになってきた。
何にでも一生懸命で、前向きで。
歌に妥協を許さない俺は、レッスンになると厳しくなってしまう癖があるが、そんな俺にもへこたれずについてくる。
そんな篤の真っ直ぐさが、少しだけ眩しかった。
篤が仕事に出かけている間、俺はスタジオにこもって曲のイメージを固める。
やっぱバラードだよなぁ。
切ない歌?……う~ん…。
指先でペンを持て余しながらうなっていると、本の間に挟まっている一枚の紙切れが俺の視界に入る。
その紙を抜き取り、文字を眺めた。まだ四行足らずしかない、詩。
そこには、俺の"想い"がつまってる。
ふと思いついた言葉を、続きに書き足した。
初めて篤を視界にとらえた日。
初めて声を耳にした日。
膨れあがる欲求。
そんな想いを言葉にぶつけた。
思いついては書き足す言葉たち。
そのどれもが、俺の想いばかり。
そうやってふと思いついては、紙に綴っていく毎日。
そんな風にしてできたのは、俺が篤に贈る、ラブレター。
……歌ってもらいてぇなぁ、コレ。
出来上がった歌詞を見つめ、自嘲めいた笑いがこぼれる。
せっかく作った歌だけど…これはお蔵入りだな。
…まぁでもせっかくだから、タイトルつけとくか。
思いついた言葉を、一番上の空白にカッコで囲んでタイトルを書き入れる。
「こいのうた、か。ストレートだな、俺も」
その紙を再び本に挟み込み、'"仕事"の歌詞を書くべく、新しい紙を取り出した。
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