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曲ができない原因は、まさにソレだ。
あの歌を作りはじめたのは、ただの自己満足だった。
だけど篤と過ごすうちに、この歌を歌ってもらいてぇなって。
恥ずかしいけど、照れくさいけど、あの声で聞いてみたいって。
だんだん強く思うようになった。
だから、商業目的じゃなくプライベートで、ちょっとこの歌、歌ってみてくんない?
ってな感じで歌ってもらうかなと考えた。
それだけで充分満足する。
となると、やっぱ映画用の歌作んなきゃなんねー。
だけどあの歌が張り付いて離れねー、他のを作れる気がまったくしねぇ。
いくら歌を作っても、あの歌以上に響いてこねー。
だったら、あの歌を提供する、か?
いやいやいや。
自分で言ってこっぱずかしいけど、あれはまさに篤宛てのラブレターだ。
それを…公共の電波に乗っけるって…どうよ?
冷静に考えると、かなりハズくね?
ラブレターを国民の皆さまに大公開ってか?
とんだ羞恥プレイだ。
恥ずかしさで死ねる自信がある。
マジでどーするよ?
ってな俺の葛藤を聖夜に聞いてもらう。
そんなうだうだな俺に、聖夜はアッサリ一言。
「その歌売り出せば?」
「俺に恥ずか死ねと!」
「なんだよ、その死に方。大丈夫、人は恥ずかしいぐらいじゃ死なねーから」
「真面目に返すなよ…」
そんぐれぇ恥ずかしいってことだっつの!
ははっと朗らかに笑った聖夜は、俺の頭をぐしゃぐしゃぐしゃ~っ!とかき混ぜた。
「おわっ、なにすんだよっ」
「なぁに、乙女気取ってんだよ!」
「やめれっ」
ぐしゃぐしゃになった髪を手ぐしで直す俺をニマニマ顔で見てくる聖夜を睨む。
「別にさ、篤のために作ったんだ!なんて言って曲渡すわけじゃねーんだろ?」
「そーだけど…」
俺の気持ちの問題ですけど?
「別に奏一人悶えるぐれーいいじゃん」
「悶えるゆーな」
そして楽しそうに笑うな!
そう言うと聖夜はだって楽しいし、ときっぱり言いやがった。くそう。
いつもなら俺が隆盛先輩とのことからかって楽しんでんのに…って何だよ仕返しか?こら。
ぶつぶつ心ん中で文句を並べていると聖夜が奏ーと俺を呼んだ。
「なんだよ」
「いい出来なんだろ?その歌」
「…まぁ。」
「お蔵入りさせちゃうのが惜しいぐらいに、だろ?」
「うん」
「それ以上のもん、作れねーんだろ?」
「そうだけど…」
「じゃあその歌しかないんじゃねーの?」
それにさ、と聖夜は優しい顔になって笑った。
「いいじゃん、世間に向かって堂々と告白できんの。
こいつは俺のもんだー!って。うだうだ悩むより楽しめば?」
「楽しむ…」
「そうそ」
楽しむ、かぁ…。
聖夜が帰った後またスタジオにこもり、ピアノ伴奏を録音しておいた『こいのうた』の音源を聞きながら、歌詞を眺める。
自画自賛だけど。
めちゃくちゃいい歌だと思う。
商業的にみて、絶対売れる。
そんな確信がある。
それに…。
やっぱ、篤に歌ってもらいてー。
……腹くくるかぁ。
あがいても、これ以上のもん、作れねーし。
聖夜の言ったとおり、楽しんじゃえばいいか。
うし。
肇に、あの歌にする、と言ったら、へぇ、と意味深に笑われた。
くっそう、肇に話すんじゃなかった、あの歌のこと。曲作り、行き詰まっていた原因を話したことを猛烈に後悔。
歌って欲しいんだよ!文句あるか!と恥ずかしさから噛み付いたら、肇は珍しく優しく笑って、楽しみだな、と言った。
篤が撮影初日を迎えた次の日の朝。
朝食を食べているときに曲が出来たと告げると、嬉しそうに顔を綻ばせる篤に心拍数が上がった気がした。いよいよ、か。
ピアノの鍵盤の上に指を乗せ、ひとつ深呼吸してから指をすべらせる。
気にいってくれるだろうか。
少しの不安をかかえ、もう覚えてしまうほど弾いたその曲を奏でていく。
最後の一音を奏で、少しの余韻を残し、鍵盤から指を離した。
一息吐いたあと、篤を見上げる…も。
なんで固まってんだ。
ボーっとピアノの鍵盤を見つめたままの篤に、声をかける。
「…どうだ?」
篤はハッとして俺を見ると、感動した、なんて嬉しい言葉を言ってくれた。
そして少し不安そうに自分が歌うんだと思うと緊張する、と言う。
大丈夫。
お前なら、きっと歌える。
「歌に込める想い。想いがある歌は、人に届く」
お前なら、きっといい歌になる。
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