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スタジオで『こいのうた』を本格的に詰めていっているとき、葵から連絡があった。
『今日さ、近くの大学借りて篤の映画の撮影やってるって知ってんだろ?
見にいかねーか?』
演技をしてる篤を間近で見れるなんて滅多にない。
二つ返事で快諾、ソッコー用意して葵の迎えを待った。
関係者パスを提示しながら(提示しなくてもほとんど葵の顔知ってる人がほとんどだったが)、撮影をやってる中庭へ向かう。
リハーサルがちょうど終わったとこらしい、篤がスタッフに囲まれて小休憩をとってた。
そしてふいに篤がこっちに振り向き、視線が合う。
ははっ、びっくりしてら。
素直な表情を浮かべる篤に思わず笑みこぼしながら、俺は篤に向かって手あげた。
小走りでこっちにやってきた篤。
ちょっと戸惑ってる姿が、なんだかかわいい。
本番に入るらしく、篤の背中を叩き送り出した。
ーーなんか、まぶしい。
ふ…と表情が変わり、演技に集中する篤をながめる。
『好きだ』
真剣な、それでいて不安な、でも強く意志を持った顔。
告白のシーンの撮影だったんだ…と頭の片隅で思う。
カットの声がかかり、いつもの篤に戻る。
俺の頭には、さっきの表情が焼き付いていた。
……なぁ、篤。
今のは、演技なのか?
俺には、篤の頭の中に、誰かが浮かんでるんじゃないかって。
そう思うのは、俺がお前を好きだからなのかな。
お前には、誰かが心にいるのか…?
冷静に考えれば篤は役者で、ただ演じているだけかもしれないのに…どうしてか俺は、あの篤の表情がホンモノに思えた。
誰かを想い、恋い焦がれている人に向けての…。
ツキン、と胸がいたむ。
どうも自分を取り繕えなくて、俺はもう帰るな、とその場を後にしようとする。
だめだ、なんかよくわかんねーけど、落ち着かなきゃ。
歩き出そうとした背後から、聞き覚えのある声で呼び止められる。
振り向くと、そこにいたのは…うげ。
元彼の、龍一だった。
こいつと出会ったのは、飲み会の席。
誰かが龍一を呼んだとかで、おー俳優の、なんて多少のミーハー心。
付き合って欲しいと猛アタックを受け、フリーだったし性欲を満たす相手が欲しかったとこだったから、軽い気持ちでOKをした…のが間違いだった。
たいそうな自信家で、横柄な態度。
ナルシストだし自己中。
それなりの地位があるのが、こいつの態度の悪さに拍車をかけた。
浮気をしても、俺だから仕方ない、みたいな。
まぁ夜の相手としては満足のいくものだったけど、でも一緒にいると疲れてくるしめんどくさい。
仕事をないがしろにするところに嫌気がさして、別れた。
話がある、なんて今更なんだよ。
別れたいっつても、あ、そうで終わっただろーが。
人も目もあるし、とりあえずしおらしい態度は取ったものの、やっぱ嫌。
ちらりと篤見やる。
この雰囲気、やっぱなんか感づくよな、そりゃ。
どことなく気まずそうな表情。
遠慮をしたのか俺をさん付けで呼び、この場を離れる篤を見送る。
なお話がしたいと言い続ける龍一に、きっぱり嫌だとつげて、葵を促してそそくさと去った。
「葵てめーあいつがいること知ってたのか?」
ギロリと睨むと、肩を竦める。
「知らなかったっつの。
そりゃ出演してんのは知ってたけど、まさかここにいるとは思わなかったよ」
そこまで意地悪くねーぞぉ?とつぶやく葵から視線を外して、ため息をついた。
「奏ー。ねみーんなら送ってやるぞー?」
「んー……」
葵の事務所の、どでっかいソファに寝転がる俺。
なんとなくひとりになりたくなくて、事務所に帰るという葵に引っ付いて来た。
仕事の電話とかパソコンと睨めっこする葵を横目に、俺はずーっと同じことをぐるぐると考えていた。
篤、やっぱ好きな子いんのかな。
もしかして共演の子?
かわいかったもんな。
そうだよな、やっぱ女の子がいいよな。
いくら女顔ったって女にはなれねーし。
って別に女になりたいワケじゃねーけど。
龍一のこと、なんか感づいてるよなぁ。
あーあ、めんどくせ。
篤の好きな人、か。
……分かってた、ハズなのになぁ。
望みなんかないって。
ここ最近、よく眠れてなかったせいか。
それともこれ以上余計なことを考えたくないせいか。
だんだんと落ちてくるまぶたに抗いもせず、そのまま眠りにおちた。
そしてそのままグッスリと寝ていた俺。
気づけば……なんとそこは家だった。
どうやら篤が連れ帰ってくれたらしい。
……なんで起きなかったんだろ、自分でもビックリだ。
グッスリと眠ったからか、とりあえずもやもやした気持ちはおさまっていた。
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