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「……っ、くそっ」
嫌な声が耳に残っていて、行き場のない憤りが、体の中を駆け巡る。
『どうとでも出来るんだよ?俺が一声かけさえすれば。
……ねぇ、奏。彼を、守りたい?』
どうして。
なんで、よりによってアイツなんかに。
守りたいかだって?
当たり前だろ。
俺が言うことを聞きさえすれば…それでいい。
グッと唇を噛みしめる。
昨日レコーディングしたばかりの"こいのうた"。
……早く、終わらせなきゃ。
その日俺は、久々にバスを利用して街に出ていた。
ほんの気分転換のつもりだった。
お気に入りのひとつであるカフェに寄って、カフェオレを楽しんで。
帰って編集作業でもするかな、なんて考えていた。
ふっとテーブルに影が差して見上げると…そこには会いたくもない、人物が立っていた。
「やぁ、奏」
「…龍一」
笑みを浮かべて、図々しくも向かい側に腰掛ける龍一に、眉間のシワが寄る。
「んだよ、座んな」
「つれないなぁ。あ、すみません。コーヒーもらえるかな?」
近くを通りかかった店員に注文までする。
まだ半分ぐらいカフェオレは残っていたけど、こいつと一緒にいたくない俺は、席を立とうと、した。
だけど、龍一が発した言葉に、俺は止まる。
「奏は、日野くんことが好きなのかい?」
唐突すぎるその言葉に、俺は動きを止めた。
ただ薄っぺらい笑顔を浮かべた龍一を見返す。
「この前、一緒にいるところを見かけてね。随分仲が良さそうだったから」
「…べつに好きとかそんなんじゃねぇよ。ただの知り合いだ」
「そう。
俺が見たことないような顔して日野くんを見つめてたから、てっきり好きなんじゃないかと思ってたんだけど。
俺の勘違い、かな」
含みを持たせた言い方。
こいつは、勘だけは良かった。
俺が篤を好きなことを、確実に気づいてる。
めんどくせぇな、もう。
注文したコーヒーが運ばれてきて、龍一はそれに口をつける。
「何なんだよ。
っつーか俺とお前はもう無関係なんだし、んなこと勘ぐる必要ねーだろうが、うっとおしいな」
「無関係だなんてひどいな。私はまだ君が好きなのに」
寝言は寝て言え、アホ。
「後悔したんだよ、君を手放して。
ねぇ、奏。もう一度やり直したいんだ。今度は、大事にするから」
「お断りだっつの」
「ははっ、相変わらず気が強いね。まぁそこが気に入ってたんだけど」
カップをソーサーに置き、龍一は俺を見て笑みを深くした。
その顔に、嫌な予感がする。
「ねぇ、奏。日野くんってさ、今が駆け出しどきだよね」
突然篤の名前を出してきた龍一。
「注目をされてる今が、一番大事なときだ。
そんなときに仕事が無くなれば、どうなるのかな」
何が、言いたい。
「あぁ、そう言えば、彼リスキーの広告塔に大抜擢されたって聞いたけど。
それを奪うのも…簡単なんだよ、奏」
龍一の笑顔が歪んで見える。
頭の中に、篤の弾んだ声が蘇った。
『聞いて!奏!リスキーのモデル決まった!』
電話越しの、弾んだ声。
リスキーのモデルをやりたいって。
篤がどんなに切望してたかを、知ってる。
その夢が、叶ったのに。
それを、奪うってゆうのか?
そんな俺の動転が伝わったのか、気持ち悪いぐらいに口角を上げる龍一。
「奏。分かるよね、君がどうしたらいいのか」
「……あぁ。」
今すぐ、そのツラを殴ってやりたい。
ぎゅっと拳を握りしめる。
ハッ。
なにが分かるよね、だ。
……あぁ、分かりすぎるぐれー分かるっつの。
ちくしょう。
満足そうに笑みを浮かべた龍一は残りのコーヒーを飲み干し席を立った。
「電話するから。ちゃんと出るんだよ?」
「…わかったよ」
龍一はサラリと俺の髪を撫で、この場を後にした。
触んな、クソヤロウ。
唇をぐっと噛みしめる。
……篤。
お前の仕事は奪わせないから。
俺さえ、我慢すりゃ、それでいい。
それでお前が守れるんなら。
安いもんだ。
その日から俺は、篤の目を見れなくなった。
こんな形でしか篤を守れない無力さと、誰にも言えない苦しさで。
……篤を避けるように、過ごした。
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