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女々しさに嫌気がさしてきた俺は、考える暇もないくらい曲作りに没頭しようとした。
あの歌を指が奏でそうになってはぐっと拳を握って耐え、頭の奥の奥に無理やり押し込む。
いつまで経っても女々しく思い出すから、つらいんだ。
忘れろ。
そうやって呪文のように自分に言い聞かす。
女々しく想う日々から一転、そんな風にスイッチを入れ替えようともがき始めた頃、聖夜から電話がかかってきた。
『今家か?』
「ん?そーだけど」
『今から行くから居とけよ』
それだけ言ってこっちの返事を待たずに切れた。
なに急いでんだ?
つーか…絶対篤のこと聞かれるよなぁ…。
葵と肇にゃ聖夜には自分から言うから、篤が出てったこと言うなよって口止めしてある。
出てったっつったら聖夜、問いつめてきそうだな。
……なぁ、聖夜。
忘れようと、もがき始めたとこなんだよ。
頼むから。
今は篤のことは聞かないでほしい。
そんなことを願っていたけど。
「よー。聖夜も飲む?コーヒー」
平静を装ってキッチンから問いかけた俺。
だけど聖夜はじっと俺を見つめて、ため息を吐いた。
なんでため息。
「いらねー。それより奏、座れ」
聖夜が座って、向かい側のソファーを指差す。
手に持ってたカップをシンクに起いて、言われるがまま座った。
「仕事は?」
「まぁ順調」
「忙しいんだって?」
「依頼いっぱいあったからな」
とまぁ、他愛ない会話。
でもずっと渋い顔のままの聖夜に対して、なんでそんな渋い顔してんの。なんて思ってたら。
「篤、元気か」
「……あぁ」
やっぱり出てくる、その名前。
篤の名前に固まっている俺を見た聖夜は、大きくため息を吐いた。
「お前…俺に言ってないことあんだろ」
その言葉にドキッとする。
「…なんのことだ?」
とぼけてみるも、聖夜は知ってたみたいで。
「しらばっくれんのか?
…篤はどうした?何で出ていかした」
…あいつらは、言うなって言ったら言わないはずだ。
だったら、聖夜が知ってる理由は…
「…会ったのか?篤に…」
本人から聞くしかない。
「偶然な」
……やっぱり、な。
「なら、聞いたんだろ?その通りだよ」
こうやって意気込んで来たっつーことは、きっと梁瀬のことも聞いたんだろう。
「はぁ?お前、馬鹿か!嫌だ嫌だっつって愚痴ばっか言ってたじゃねーか!
何でそんな奴と寄りが戻るんだっつの!」
聖夜は案の定食ってかかってきた。
「うるせーなぁ。聖夜には関係ないだろーが!」
「あぁ?あんだけ相談しといて関係ねぇだぁ?」
……っ。
確かにお前にたくさん相談したよ。
こんなに人を好きになったのなんか初めてだったから…誰かに聞いて欲しくて、事あるごとにお前に話した。
そんなお前に、関係ないなんて言うべきじゃないって思うけど。
「…気持ちは変わるんだよ」
変わってない。
でも、もう諦めるしかないんだよ。
「本心か?」
さらに目を鋭くした聖夜から視線を逸らす。
「…あぁ」
そんなの、本心なわけがない。
心の中で否定する。
頼むから。これ以上問い詰めないでくれ。
「…嘘つくなよ!」
……っ、頼むから。
「そんな顔して、何言って…」
「いいんだよ!」
聖夜の言葉を遮って叫ぶ。
「これで、いいんだ…っ」
ギュッと握ったこぶしが震える。
俺の様子を訝しがってか、聖夜が心配するような声になった。
「奏…お前何があった。あんなに、喜んでたじゃねぇか。
それなのに…」
もう、やめてくれ。
「いいっつてんだろ!そんな話しにきたのか?
なら、もう帰れよ」
突っぱねるように言い放つ俺に対して、聖夜がキレた。
「なに頑なになってんだよ!何隠してやがるっ。
お前がなんか隠してることぐれー、わかってんだよ!何年つるんでると思ってんだ!」
「…っ、うるさい…」
お前の言葉が突き刺さっていてーよ、聖夜。
頑なにだってなるさ、必死で忘れようとしてんだ。
隠してーんだよ。お前が知ったら、絶対、諦めんなって言うだろーが。
俺だって諦めたくない。……でも。
俺は篤を守りたいんだよ。
「いいのか?なぁ、いいのかよ、このままで。
嬉しそうに、俺に報告してたじゃねーかよ。あんな楽しそうな奏、俺は初めて見た。
そんなお前を見て、心から応援してやりたくなった」
まくしたてるように言う言葉のひとつひとつが突き刺さる。
「後悔しねーのか?本当にこのままで、お前はっ」
「言うな!!…それ以上、言うな…」
たまらずに叫んだ俺を見て、聖夜はハッとしたように言葉をつまらせた。
「頼むから…もう言うな…っ。
諦めようと、してんだよ…忘れようとしてんだよ…っ。
思い出させたり、すんな…っ!」
聖夜の、驚いた顔。
そして、俺の頬を伝うもの。
ははっ、なっさけねぇ。
堪えきれない感情が、涙となって現れた。
「奏、お前…」
「しょーがねぇじゃんっ!大事なんだよ!…アイツが、大事なんだ…」
思わず漏れた本音。
それに反応した聖夜は、眉間にシワを寄せた。
「…お前、あの野郎に何言われた」
「…べつに、」
「まだしらばっくれんのか!…まさか、脅されたのか?」
少し間を置いて、考えついたことを聞いてくる聖夜。
何もかも見透かしたような聖夜に、返す言葉が見つからない。
「…そうなんだな」
誤魔化しきれないだろうと、最初っから分かってた。
それぐらい、聖夜は俺のことを理解してくれてることも。
確認するように名前を呼ばれる。
認めるしか、なかった。
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