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「おっまえ、馬鹿か!んなことで、お前が犠牲になってどーすんだよ!」
深いため息のあと、怒りをあらわにする聖夜。
俺のために怒ってくれてんのは、分かる。
でも──悪いな、聖夜。俺は、そんなお前を突っぱねることしかできない。
「うるさい!
アイツ…篤は、めちゃめちゃ喜んでたんだよ…。リスキーのモデル、抜擢されて…」
あの時の、電話越しでも伝わる弾んだ声。
「これからだって、もっともっと、活躍してく…」
潰したくない。
篤に待ってるであろう、輝かしい未来を。
梁瀬なんかのせいで。
───俺の、せいで。
思いをぶちまける俺を見て悲しそうな顔をした聖夜は、さらに深くぐっと眉を寄せた。
「篤の仕事に圧力かけるぞって言われたわけか…あの野郎…っ!」
なぁ、聖夜。
俺さ、情けないけど、こんなやり方でしかアイツを守ってやれねーんだよ。
だから、篤のことは、もういいんだ。
そう伝えようとしたら、またため息をついた聖夜は俺を通り越して後ろに視線を送り。
「だとよ。入ってこい」
意味の分からん一言を放った。
その、すぐ後。
キィっと音がして、人の気配。
そんな、嘘だろ、まさか───。
ゆっくりと後ろを振り返ると、そこには複雑な、どこか傷ついた表情を浮かべた篤が、いた。
「あ、あつ、し…え…なん、で…」
ゆっくりとこっちに近づいてきた篤は、手をのばし指先でそっと俺の目元を拭う。
後は二人で話せ、と出て行く聖夜の後ろ姿を半ば呆然と見送った俺は、篤の視線に気づいてうつむく。
聞かれて、いたのか。
あんな、感情まかせの言葉。
俺の気持ちなんてまるわかりの、言葉を。
篤がソファに座った振動に、そして俺を呼ぶ声に、体が震える。
「奏。俺のことで脅されてたなんて知らなくて…ごめんね」
「…なんでお前が謝るんだよ」
そうだ。お前が謝る必要はないんだよ。
俺が、勝手に好きになって、それで梁瀬につけこまれた。
むしろ謝んなきゃいけないのは、俺の方だ。
「だって…奏に嫌な思いさせちゃったでしょ?」
俺はいいんだ。
嫌な思いをしても、自業自得だから。
むしろお前のほうが嫌な思いしただろ?
男に好意向けられて、そのせいで仕事干される可能性もあるなんて。
俺は篤の顔を見るのが怖くて、うつむいたまま。
……怖い。
篤の顔に、目に軽蔑がこもっていたら。
嫌悪がこもっていたら。
侮蔑がこもっていたら。
俺を友達として慕ってくれた、あの優しい眼差しが。
崩れていたらと思うと。
たまらなく、怖い。
あぁ、俺はこんなにも臆病だったんだ。
「奏…顔、上げて」
そう言われて、苦しくなる。
でも、篤がどんな顔をしていようと。
俺はそれを、受け入れなくちゃ、と顔を上げた。
覚悟を決めて、見上げたその先。
そこにあったのはーーいつもと変わらない…いや、いつもよりも優しい眼差しだった。
「奏に、聞いて欲しいこと…あるんだ」
そう言って、篤は俺の両手をキュッと握る。
手のひらから伝わる熱に、胸が高鳴る。
真っ直ぐ俺を見つめる瞳。
その瞳に魅入られるように釘付けになっていた俺は、篤の唐突な言葉に一瞬理解できず、そして戸惑った。
「俺…奏が好きだよ」
………え…?今、なんて…好きって、言った…?
……あぁ、そうか。友達、の好きか。……友達?本当に?まさか。
篤の瞳が真剣で、でもそんなハズないと篤に友達としてだよな?と確認する。
すると篤は即座に違う、と否定した。
違う?じゃあ…
「高遠さんが奏に触れてるのを目にして、すごく嫌だった。
社長にも…梁瀬さんにも、嫉妬した」
ほんの少しだけ持った期待。
それを助長させるように、篤の言葉は続く。
「奏の笑顔にいつもドキドキした。…奏に、触りたいと思った。
たぶん、俺…初めて会ったときから惹かれてた。
友達じゃ、嫌だよ。そんなんじゃ足りない。
俺は…奏が、本気で好きだよ」
ウソだ、そんなの。
そんな心境が、口をついて出た。
でも、篤は本当だと言う。
優しい優しい笑顔で。
「…っ、お前、ノーマルじゃ…っ」
「うーん…どうなんだろう。
本当に奏に惚れちゃったから、よくわかんないね」
ウソ、ウソ、本当に…?
ぐるぐると感情がうずまいていく。
ツン、と目の奥が痛くなった。
「ねぇ、奏。教えて。さっきの言葉の意味。
諦めるって?忘れるって?…俺が大事って…ねぇ、奏。
俺…うぬぼれてもいいの…?…わっ、」
篤の言った言葉が信じられなくて、現実じゃないみたいで。
篤に飛びついて、抱きついた。
「…嘘じゃ、ない…?
ホントに好きって、恋愛の意味で…?」
友達じゃなくて、恋愛の対象としてなのか。
確かめたくて、問いかける。
篤の腕が、優しく俺を抱きしめた。
その行動に胸が高鳴ったと同時に、耳元で囁かれる。
「うん。恋愛の意味で。奏が、大好きだよ」
信じられなくて、でも目の前にある温もりが現実だと教えてくれて。
嬉しくて、嬉しくて、篤の肩に顔をうずめる。
言えないと思ってた。
伝えることはないと思っていた。
自分の、気持ち。
「…俺も、好き…」
苦しいくらいに力強く抱きしめてくる篤。
その苦しさのなか、思った。
──夢みたいだ。
でも。今ある温もりが教えてくれる。
夢じゃ、ない、と。
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