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「おぉい篤~…と、寝てんのか」
締め切りが迫った仕事があったから朝からスタジオにこもっていた俺。
ようやく終えてリビングに戻ると、ソファでうたた寝をしている篤を発見。
スヤスヤと心地よさそうに寝る篤に、ふっと笑みがこぼれる。
気持ちを伝えあってから、早半年。
あの映画が公開されてから、篤はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いとはこのことか、と納得するほど人気が上がった。
それとともに当然仕事も忙しくなるわけで、ここのところ深夜帰りが続いていた。
今日は久々に早く帰れたらしく、ただいまーとスタジオに顔を出しに来たのはほんの30分ほど前。
熟睡っぷりを見ると、よっぽど疲れてるんだろう。
「お疲れさん」
顔を覗き込んで、サラリと髪を撫でる。
梁瀬に別れを告げたとき、あいつは篤の仕事を全部潰してやると言い捨てた。
負けんな、とも言ったし、篤は負けないと言ってたけどやっぱり心配だった。
でもそんな心配をよそに、篤への仕事のオファーは増える一方で少し安心する。
葵の忠告が効いているのか…改めて思うけど葵を敵にまわしたくないな。
今は体を壊さないかとそっちのが心配だ。
寝るだけ寝かせてやろう、と頭をもうひと撫でしてから立ち上がりその場を離れようとした、ら。
「そこはちゅーじゃないの?」
と、さも残念そうな声が。
振り返ると、これまた残念そうな顔が。
「前みたいにさ」
前。
…寝ている篤に、思わずキスしたことか。
まぁ、起きてたみたいだけど。
その時の自分を思い出したら少し気恥ずかしくなる。
くるくるぐるぐるから回ってたなぁ、って。
思わず苦笑を漏らすと、見上げてきた篤は不思議そうな顔。
「わり、起こしたか?」
気恥ずかしさを誤魔化すために、話を逸らすように会話を変えてみる。
起き上がった篤は、俺の腰に手をまわし、抱きついてきた。
お腹にスリスリと顔を寄せてくる。
「ううん、大丈夫。逆に起こしてくれてありがと。
寝るつもりなかったんだけど、うとうとしちゃった」
「そんだけ疲れてんだよ。
寝とけば?ご飯作るし、出来たら起こしてやるよ」
うん、話逸れたな。よしよし。
そう思いながらぽんぽんと頭をたたく。
「いや、せっかく早く帰れたんだし、奏がいんのに寝てんのもったいないし。
それに明日は久しぶりのオフなんだー。だからゆっくりできるしね」
オフ、と聞いて嬉しくなる。
そんなほくほくした気分でいると。
「で?なんでちゅーしてくんなかったの?」
と、唐突に蒸し返された。
お腹に寄せてた顔を上げ見上げてくるニヤニヤからかい顏の篤。
うーむ……。
そんな篤を見下ろして、俺は笑う。
そうだ。さっきの篤の言葉を引用してやろう。
「寝てるときにすんのもったいねーじゃん。起きてるときにしないとさ。
明日はオフなんだろ?たっぷりできるな」
そう言って、軽くちゅっと唇にキスを落とした。
すると篤は一瞬ポカンとして、そして。
「奏にはかなわないなぁ」
俺が大好きな笑顔を浮かべて、そしておかえし、とキスされる。
なぁ、篤。
お前を見つけて、お前に恋してさ。
今まで知らなかった自分にたくさん出会ったんだよ。
俺はずっと、みんなが羨ましかったんだ。
みんな、大切なパートナーがいて、そしてその人のことで一喜一憂して。
好きな人の前では臆病だったり、ヘタレだったり、甘えただったり、無邪気だったり、それこそ泣いたり笑ったり。
そんな″恋″をするみんなが、羨ましかった。
憧れた。
恋愛のうたとか作ったこともあるけどさ。
こんな恋をしてみたいってゆう、俺の願望を綴った。
でもさ、そんな感情、きっと俺にはないんだって諦めてたんだ。だけど。
ちゃんと、あった。
お前のことになると臆病でヘタレで。
お前の前だと無邪気になれて、甘えられて。
お前を想って、泣いて笑った。
端から見たら情けなく見えるかもしんないけどさ、でも情けなくていい。
こんなにも感情を揺さぶられる恋ができて、俺は幸せだよ。
キッチンに二人並んで、一緒に料理をする。
些細な幸せが、ここにもひとつ。
「あつしー大好き」
俺は玉ねぎを炒めて。
「うん、俺も。大好き」
篤は人参を切って。
作業の手を少しとめて、軽く唇を合わせる。
お互い笑いあいながら、再び手を動かした。
うん。
今ならどんな恋の歌でも作れそう。
あ、でももうこの気持ちは″恋″じゃないから。
そうだな。
篤には、トクベツ、″あいのうた″を贈ってやろうかな。
END
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