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俺の彼氏はろくでなしだ。
出張で4日留守にした家に帰って最初に思ったのは、そんな事だった。
リビングの灰皿に残された、俺の物でもアイツの物でもない吸い殻。
ベッドの横のゴミ箱には、使用済みのあれこれ。
洗面台には、挑発的な腕時計の忘れ物。
「……証拠隠滅くらいしとけよ。」
長時間の移動と、普段の勤務より気を遣う本社での会議。
この4日間でストレスに晒されまくった俺に追い打ちをかけるような、この状況。
浮気をするな、とはもう言わない。
言っても無駄だから。
だけどさ、これは無いだろって思う。
少なくとも、2人で住んでる家でこういう事をするなら、それなりの礼儀があるだろって。
「あー、もうムカつく!」
あのバカが帰って来るまで、あと1時間。
それまでに何か有効な策を立てないと。
俺がこの状況を不快に思っていて、今後こういう事は許さないって。
そう伝える有効な策を。
恋愛で大切なのは駆け引きだ。
主導権を握った方が、その小さな関係の中での王様になる。
そんな考えが頭をよぎった瞬間、心の中で小さな闘志が湧いてくる。
じゃあ、握ってやろーじゃないかって。
その主導権ってやつを。
マーキングでもしたいのかってくらいに、嗅ぎ慣れない香水の匂いが染みついたシーツを剥ぎ取って洗濯機に放り込む。
乾燥機なんてものは付いて無い安物の洗濯機。
こんな時間の、しかもこんな寒い日に洗濯してどうするんだって感じだけど、そんな事は俺の知った事じゃない。
これの処理はあいつに任せよう。
回り始めた洗濯機の横の洗面台。
ふと目についた腕時計をベッドの横のゴミ箱の中身と一緒に袋に纏めて玄関に出す。
これは明日、あいつにゴミ捨て場へ持って行かせよう。
あとは、灰皿も綺麗にさせて。
ベッドには新しいシーツを掛けさせる。
我ながらささやか過ぎる報復に、もっと何か……ってそう考え始めた所でチャイムが鳴った。
「げ、帰ってきやがった……。」
予想よりも少し早い帰宅。
しかも、鍵を出すのが面倒だからって、俺が家に居る時はチャイムを鳴らして俺に鍵を開けさせる。
ホント、ムカつく。
そう思いながら、内側から開錠してドアを開ける。
「さとる、お帰り!」
何故か帰ってきたヤツから、そう言われて抱きつかれる。
「ちょ、お前……!やめろって!」
不意に掛けられた体重で身動きが取れなくて、ドアを閉めたいのに閉められない。
抗議の言葉は、俺より背の高いこのバカには届かなかったのか、抱きしめられる腕の力はその強さを増す。
「……寂しかった。」
どの口がそんな事を言うんだか。
呆れるのを通り越して、バカバカしくなってしまう。
ホント、ムカつくよ。
こんな一言で。
ただ抱きしめられただけで。
全部許して、側に居たいって思ってしまう自分に。
まだ俺を抱きしめているバカの向こう側には、共有の廊下。
その先には真冬の夜空が広がっていて。
透き通った空気の中に浮かぶ三日月。
まるで俺の心と同じようなそれが
満たされないままの形で
ただ、綺麗に輝いていた。
<end>
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