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さよならはいわずに
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「むらやまさんーー!見つけましたよ〜!」
「嫁が俺を閉じ込めるんじゃぁ〜!のぼる、なんでお前はあんなおなごと結婚したんじゃぁ〜!」
「あわっ…あわっ…。」
殆ど髪の毛がない、皺だらけの老人が幸希の腕を掴んでいた。
「のぼる〜!!」
「だ、だ、だ、だれ!?」
幸希はあまりの恐怖に声も出ず、倒れそうになった所を勝谷が受け止めた。
「のぼる〜〜!」
「痛っ。」
強く掴まれて、顔を歪めた。
「お爺ちゃん、彼は”のぼる”さんではないですよ。」
そっと勝谷が老人の手に触れ、幸希の身体を強く抱き寄せた。
「いいや!これはうちのせがれじゃ!」
「えっ?いやいや…あげられません!」
2人の攻防の間で、幸希は勝谷すがる形になった。
「むらやまさん!ようやく捕まえた。」
ようやく追いついたかのだろう、息を切らして1人のナースさんがむらやま老人の肩に手をかけた。
「鬼嫁じゃあ〜〜!!」
ナースさんを見ると老人は一言吐いて、また逃げようとした。
「はいはい、むらやまさん。もう病室に帰りましょうね。あっ、下の階に内線しといて。むらやまさんいたって。」
体格のいいナースは脇でしっかりむらやま老人を固め、ズルズルと引っ張ったいった。
逆方向から走ってきた年配の女性が息を切らして、「わかったわ。」と手を挙げた。
「はぁ〜よかった。貴方たち、大丈夫?」
ナースは勝谷にしがみついたまま、固まった幸希に声を掛けた。
「は、は、はい。。」
「そう。どうしたの?こんな夜中に?」
「あっ、トイレに…」
勝谷は幸希を引っ張りながら立ち上がった。
「あら?」
ナースは私服の勝谷を不審そうに上から下に見て、
「面会時間は終わっているはずよ。」
「あっ…これは…」
勝谷が何も言わずにいたので、幸希は”弟です”嘘をつくのにためらっていた。
「トイレなら私が連れて行ってあげるから、貴方は帰りなさい。その階段から夜間通路に出られるから。さぁ、僕は立って。」
「ぼ、僕!?」
抗議する間も与えず、年配のナースは幸希を引きずって行った。
「ちょっ…待って…」
そういいながら勝谷を見た幸希は息が詰まった。
遠ざかる勝谷の顔には迷いか悔しさかなにかいいたげに唇を噛んでいた。
「勝谷くん!」
勝谷はハッとしたように幸希に背を向けた。
「あっ…」
”ありがとう”も”さよなら”もいえなかった自分に罪悪感にも似た重さを全身で感じた。
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