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揺れ動く想い
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岩の向こうから聞こえた名前に里見はつい身を隠した。
「何何?どうしたの?勝谷くん?」
「…いや…あの…」
女の子も何かを察したのか身をかがめて、声を潜めた。
「知り合い?」
里見はそっと岩から顔をのぞかせた。
「雨宮さん、今日、あの大学生たちが来てるの知ってたんでんですか?」
声は金田のものだった。
里見たちが身をひそめた岩からの距離はかなり近く、2人の声や姿はよくわかった。
金田の問い詰める先には先程と同じように白のパーカーを羽織ったままの雨宮がいた。
黒い髪が海風に吹かれて、何かの映画のように見えた。
(タイプと聞かれて、真っ先に浮かんだのは貴方の事だ)
その華奢な身体も綺麗な黒髪も、跳ね返りのようで何だかんだで許してくれる優しさも、他人の心配ばかりする性格も全てが好きだと。
里見はそっと隔てられた岩に触れた。
「知らないよ!今朝起きたら木下が来て、何も言わずについて来いっていわれたんだよ。ついて来ないとこの前の病院代、会社から出さないって言われたし…」
「そんな…出るに決まってるじゃないですか!木下さんは社長でもましてや経理部長でもない、ただの主任ですよ!」
「あははっ、そうだよね。…まぁ、ちょっとお礼言いたい人もいたしね…」
「お礼?」
里見はアッと思った。
”あのさ…今日、俺が来たのはさ、君にさ…”
里見はすぐにでも飛び出したいくらい胸が熱くなった。
「いや、何でもないよ。金田くんは何で来たの?あっ、そうだよね!若いから女子大学生とお知り合いになれるもんなぁ〜〜。木下と石渡さんは無理だろうけど(笑)金田くん若いし、顔もいいから。楷くんの知り合い美人多いから、いい子いっぱいいるだろう?」
「俺は…俺は雨宮さんが行くって聞いたから、ついて来たんです。」
里見は金田のその真っ直ぐな感じに覚えがあった。
「そっか…まぁ、俺も金田くんがいる方が気が楽だよ。」
雨宮はパーカーの前をチャックを全部下げ、海の方向に身体を向けた。
「海なんて何年ぶりだろう…」
海風に吹かれる雨宮の横顔に見惚れてしまいそうになる。
「…俺はあの大学生が来るから、雨宮さんも行くんだと思いました。」
里見はドキリとした。
「大学生?」
「あの…背の高い男の子です。親しい感じだったから。。」
雨宮は金田に振り返った。
里見は雨宮の一挙一動に緊張り、心臓が高鳴る。
「…そんな訳ないじゃん!彼とは何にもないよ!」
「で、でも…あの子は雨宮さんの事が好きなんじゃあ…」
里見はゴクリと唾を飲んだ。
「やだなぁー俺、ゲイじゃないし!あの子は普通のモテ男なんだから、そんな事で言ったらダメだよ!失礼だよ!あの子は普通に女の子と付き合ってるよ!」
「あっ、そうなんですか。てっきり俺は…」
「そうだよ。あの子は普通の大学生だよ。」
里見は急に身体の力が抜けていった。
(それじゃあ、雨宮さんを好きになったら普通じゃないってことなのかよ!!)
雨宮の里見に対する拒絶の色がはっきり見えたような気がした。
「何の話してるの?あの2人?」
岩に拳を立てようとしていた里見は、女の子の声で踏みとどまった。
「….さぁ…」
「でもうちの誰かの話してたよね?しかも男?」
「…そう?もう行こう。。」
里見は立ち上がった。
「か、勝谷くん?」
もしかして、彼女の声で2人に気づかれたかもしれない。
しかし、里見は振り向かずに歩き出した。
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