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小栗くんの勇気
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「あ、あの…勝谷さん。。」
ずっと何か言いたげだった小栗がようやく口を開いた。
「…何?」
里見は小栗を見ず、レジ点検の準備をした。
「あの…始めに来ていた女性はどなたですか?」
「…わからない。多分ここで知り合った人だと思う。」
「”思う”って…。」
つまみ上げる硬貨が重く感じた。
「この前も違う女性とお話しされてましたよね?その方ともとても親しげでした。」
「…」
「ねぇ、勝谷さん?」
「なんでそんな事聞くんだよ!」
里見は苛立ちながら、乱暴に硬貨を掴んだ。
「あっ…」
「小栗くんには関係ないだろう?俺がどんな奴と付き合おうが!」
里見は息を吐いて、電卓を叩いた。
「だって…俺…諦めようと思ったんです。」
泣きそうな声に里見はようやく小栗の顔を見た。
「お、小栗くん?」
「俺、諦めようと思ったんです。勝谷さんが女の人と意味ありげな話をしてて…2人は付き合ってんだと思っていたから…」
幼い顔にポツリとニキビを作り、うつむき加減で唇を噛んでいる姿に里見は苦しくなった。
「俺、あなたが好きなんです。」
何故、小栗を見れなかったかわかった。
彼の真っ直ぐな目も苦しそうな声も全部以前の自分だから。
急に熱く、まるで血がめぐり出したかのように頭や心が動き出したように感じた。
「小栗くん…」
「ごめんなさい…急に…答えはわかってます!俺、告白できただけでいいんです。勝谷さんが女性といるのを見て、これが最後のチャンスかなっと思ってたんです。」
小栗の泣いたような笑顔は綺麗だった。
自分は好きになってあげられないが、彼には誰よりも幸せな恋をして欲しいと思った。
(あっ….きっとあの人もこんな気持ちだっただろうか?)
大切な人に人並みの幸せを掴んでもらいたい。
他の人みたいに”好きだ”といわれて、はいはいとベッドに入る訳にはいかない。小栗くんは大切な友人だ。
”人を想う”という気持ちを押し殺して、何とか折り合いをつけようとしていた。
でも”想う”気持ちはなかなか消せるものではない。ふっと現れ、切なくなる。それでも”想う”。
「小栗くん…俺、他に好きな人がいるんだ。だから…。」
小栗は小さく首を振った。
「いいんです。ちなみに…勝谷さんの好きな人ってまだあの唐揚げ弁当の人ですか?」
レジスターに入れようとした硬貨を落としそうになった。
「やっぱり!何度か妨害したのにな〜。」
「えっ?」
「なんでもないです!でも…あの人でよかった。そういえば最近、勝谷さんの入ってる時には来ないですね。」
「うん…。」
無性に顔が見たくなった。ずっと押し殺していた”想い”だ。
「勝谷さん。」
レジスターを締めて、里見はようやく柔らかい顔で小栗に向き合えた。
「ん?」
「俺、諦めませんから。」
里見はくすりと笑った。
「あぁ…。俺は…もう一度だけでいいから会いに行きたい。」
ばしんと小栗が勝谷の背中を叩いた。
「もうすぐあの香水まつ毛女が来るんじゃないですか!?勝谷さんは先に帰る準備して下さい!次のシフトももうすぐ来るはずですから!」
叩かれた背中は”勇気”もくれたようだった。
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