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知らなかった一面
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しばらく俺も宿題やってたけど、どんよりした雰囲気に、たまらず沈黙を破った。
「2人帰って寂しくなっちゃったなぁ。」
「そだね。でも山崎くんいるから寂しくないよ。それに、俺寂しいのには慣れてるし。」
あの最初の頃に見た儚げな表情。そういや最近、こんな顔しなくなったな。やっぱ病院通いじゃ、寂しくもなるよな。
「入院してる間とかさ、やっぱ寂しいよな。」
今なら俺たちが毎日見舞ってやるけどなって言う俺に、山科はありがとうっていつもの明るい顔に戻って笑った。
「最近すごく体調いいんだ。それに、入院してる間もピアノはあったから、そんなに寂しくもなかったよ。」
最近のピアノはすごいんだよ。電子ピアノでも生音みたいな音出るんだって言う山科。山科のピアノ弾いてる姿、想像してみる。すっげー様になってる。
「...聴いてみたい!」
今山科家の防音ルームに俺は居る。部屋には埃一つないグランドピアノが2台。超本格的じゃん。
山科がピアノに手を置いて、柔らかな手つきでおもむろに弾き出した。
ポロン..ポロロン...
優しい旋律。俺ピアノにはそんなに詳しくないけど。これはかなり上手なんじゃないかな。
おそらく俺らみたいに普通の子供時代を過ごせなかっただろう山科は、その分自分の感受性に素直で、人よりも純粋な魂を持ってる。
彼は心は繊細だけど決して脆い訳ではなく、並の衝撃には耐えられる程の強い精神力の持ち主。
何よりも控えめで優しい人柄。
そんな山科の全てが、ピアノの優しい旋律に溶け込んでいるように感じた。
「...山科、俺感動した。」
目を兎にして聴いていた俺は、山科の演奏が終わって、スー...と現実に戻る感覚に寂しささえ感じた。
「山科さぁ、もしかして本格的にピアノやってた?」
この部屋といい、今の山科の演奏といい、付け焼き刃で練習してますって感じじゃねぇよ。
「...うん。コンクール出たりしてた。海外行くチャンスもあったんだけど、身体の調子が良くなくて許してもらえなかったんだ。」
そっか。その口調、もしかして今はもうやってないのか。もしそうなら俺もったいないと思うよ。
「...山科のピアノ、めっちゃ好きだ。また聴かせてな。」
紛れもない本心で言う俺に、山科は若干躊躇してから口を開いた。
「俺も、はじめくんって呼んでいい?」
もちろんだ。
どんよりした気分なんかサッパリ消え去った俺は、軽い足取りで山科の家を後にした。
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