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一人じゃない
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他人事のように自分の生い立ちを淡々と話し続ける志音の顔を盗み見る。
「……!」
本人は気づいてるのだろうか?
志音の瞳からポタポタと涙が落ちていた。
落ちる涙も気にせずに話続ける志音。
……大丈夫だ。お前は一人じゃないよ。
俺が見てる。そう言って今すぐに抱きしめてやりたかった。
志音の手を握り、俺も泣きそうなのを堪え下を向く。
大丈夫だ……大丈夫。
こんな話、他人事のように思わなきゃ話すことなんて出来なかったんだろう。それでも俺に話してくれた。
俺は心の中で、一生懸命志音に「大丈夫」と言い続けた。
話が終わり、無言になる。
志音が俺の様子を見ながら戸惑っていた。
「……先生? お代わりもらう?」
手付かずになったグラスが汗をかいて並んでるのを見て志音が言った。
ダメだ……
「お前の家に行くぞ」
俺は半ば強引に志音を引っ張り、マンションへ向かった。
部屋に入ったと同時に俺は堪えられず志音を抱きしめた。抱きしめずにはいられなかったんだ。
同情か? と聞かれた……
そうなのかもしれない、
そうじゃないかもしれない。
俺にはわからない。
ただ、志音を抱きしめてやりたいって思ったんだ。一人じゃないんだと伝えたかった。
俺は初めて会った時から志音に感じていた不思議な違和感の理由が、少しわかった気がした。
そして飲まずにはいられない気分になり、志音の部屋でワインを見つけて俺は飲みはじめてしまった。
酔っ払ったなぁ……
志音の事が気にかかる、と思いながら居心地の良さも感じて泊まっていきたくなる。
てか、学校に近いんだよな俺の家より。それを言ったらそんな理由じゃ嫌だと言うから、少し甘えて言ってみた。
やっばり飲みすぎたな……
自分の感情を抑えることが出来なかった。
キスしたい。
こんな感情、シャワーでも浴びて頭スッキリさせないと後戻りできなくなる。
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