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嫌いになれない
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この3日間、たった3日間なのにとても長く感じた。
組長さんから色んな事を聞かされ、僕も自分の事をありのまま話した。
僕は今回飲まなかったけど、組長さんに手酌をしながら何気ない事から非日常的な話まで。沢山した。
僕が可杯の事を知っていたら組長さんはとても関心して褒めてくれた。
桐島さんとの可杯が役に立ったのかなってその時は思った。
「いっちゃん……」
「…………」
この3日間。ずっと考えてた。
「3日振りだね。」
「っ……」
この時の僕を見たら、日野はどんな顔をするんだろうって。
「なに驚いてるの?」
「……………」
日野は、僕を目の前にして拳を握り締め下を向いた。
もしかして、この格好変だったかな?
桐島さんが貸してくれたこの和服。
滅多に着ないものだし。なんだか、これを着ていると僕はすっかりこの組の一員の様に自分でも思えてくる。
「日野?」
なんて、そんな事で日野が驚くわけもない。
「…………」
首を傾げて、日野の方へ手を伸ばす。
「酷い顔だね。久しぶりに会ったのにそんな顔しないでよ。」
「うっ……」
手を伸ばすと、日野が顔を上げて僕の方へ駆けてくる。
「っ……ゔ…」
「…………」
伸ばした手を日野が掴み、体を引き寄せられ大きな日野の腕の中に僕の体がすっぽりと収まった。
「…ぐ…ぅ、っ…」
「…………」
力一杯抱きしめられ、日野は僕の肩に顔を埋めて泣き始める。
「…なんで泣くの。」
「……だ、って…いっちゃん……」
「…………」
日野が泣き虫なのは知ってたけど、こんなに真剣に涙を流すのは初めてで、なんだか僕も泣いてしまいそうになる。
「泣かないでよ。」
大きな日野の背中をゆっくりと撫でる。
そうする度に、「ああ。僕の選択は間違いじゃなかった。」って思えた。
「腕……腕…」
「うん。大丈夫だよ。」
「うっ…っ…」
“両手”で、日野を抱き締める。
「ちゃんと腕一本渡したから。」
「ズッ……ゔ、っ…ぐ…」
腕は、ちゃんと渡した。
「“少し”痛かったけど、大丈夫だよ。」
「ヒッグ……っ…」
僕の腕は日野組のものになった。
それは、切り落とされたんじゃない。
「ごめん…ごめん……」
「………」
首元にチラつくそれを見て、日野は何度も謝ってきた。
今までにないくらい強く抱き締められて、耳元で、何度も謝ってきた。
「聞いて。」
そんな日野の頭をゆっくりと撫でる。
「僕は今まで、後悔が残る選択ばかりしてきたんだ。」
それが正しいと思ってしたり、間違いだと分かってしたり。
でも、全部自分が出した答えについて回ったのは後悔という言葉だった。
「今回、これに関して後悔はしてない。」
「………っ…」
「だから、君が謝る必要はない。」
「ゔ…っぐ……ズッ…」
「…………」
僕の右腕には、日野が2年前に体に彫らなければならなかったもう一つの刺青が入っている。
この組は、日野組の跡取りである者には必ず両腕に組の象徴である龍の刺青が彫られる。
13歳の時に日野は一つその象徴を体に刻んでいる。
だけどその後もう一つの刺青を彫る事はしなかった。
「……君のお父さんには感謝してる。」
組長さんは、僕の右腕がほしいと言った。
そしてそれを承諾し、僕は右腕をこの組に捧げた。
僕にもう一つの刺青を与えた事により、僕は日野が背負うはずだった人生の半分を背負う事になった。
同時に、日野はこれから背負うはずだった人生の半分が自由になった。
組長さんは、約束通り日野を僕に託してくれた。
「これで僕は君のものになったんだ。」
残りの人生は日野のものだ。
日野が望むように使えばいい。
「君は僕のものになってくれる?」
相変わらずだらしなく鼻水を流す日野の頬に手を添えてそう尋ねると、大粒の涙を流しながら日野は僕の頬を両手で包み込んで来た。
「当たり前やろ…っ…」
「…………」
「けど……もうこんな無茶な事せんとって……命がいくつあっても足りん……」
「……うん。」
「俺……ほんまにいっちゃんの腕無くなったらどうしようって……怖くて…」
「……うん……。」
本当に、馬鹿だって自分でも思うよ。
「……樹…」
「……………」
でもこうして大事に抱き締められると、別にたまに馬鹿になってもいいかなって思えてくるんだ。
「気持ち悪いな……急に名前で呼ばないでよ…」
「…ゔ…っぐ……ご、ごめん……」
「…………うそ……いいよ別に。」
「‼︎」
そう言うと、更に力強く抱きしめてくる。
「………苦しい…」
「…ごめん…」
「……………」
涙でぐしゃぐしゃになったその顔で、嬉しそうにごめんなんて言われたら、こっちまで嬉しさが移ってくる。
「……ここを出ていっちゃんと暮らしたい…」
「……………」
「俺………毎日いっちゃんにおはようって言いたい…おかえりって言いたい……」
「………うん。」
いい加減に聞こえてたはずの言葉が、ちゃんと意味を持って聞こえた気がした。
「好き……俺…いっちゃんの事好き……」
「…そうじゃないと困る。」
「ぅ……ズッ……」
泣きじゃくる日野の頭を呆れながらも優しく撫でた。
ゴワゴワだけどふわふわな犬っ毛。
触り始めるとクセになってしまいそうな日野の髪。
「じゃあ……一緒に帰ろう。」
「……ゔん…」
胸のモヤモヤは無くなって、温かくてふわふわした気持ちが体全身を包む。
日野の顔を下に引き寄せ、涙で濡れた彼の唇にキスをすると、ようやく僕の欲しかったものが手に入った気がした。
「……好きだよ……龍也…」
「っ‼︎」
そう言うと、瞬時に真っ赤に染まる日野の顔。
「いっ、いっちゃんっ……」
「…?…な、なに……」
びっくりして後ずさる日野を見ると、なんだかこっちまで恥ずかしくなって来た。
「今、いま…なんて……名前で…え…?」
「さあ……空耳じゃない?」
「嘘や‼︎ちゃんと聞こえたぞ‼︎もっかい言って‼︎」
「…知らないよ。」
「いっちゃん‼︎‼︎」
「〜〜っ…うるさい。」
赤面したままでさっき言った言葉をもう一度言えとうるさい日野の顔を手の平で隠す。
日野はすっかり元に戻った様で、調子が戻ると僕の体にしがみ付いて必要以上に好きと言ってくる。
「…分かったから……もうそれ以上言わないで…」
好きが本当に聞こえてくると、それを聞くだけで、嬉しくて、恥ずかしくなる。
二度目の恋の相手は、とてもいい加減な人で、見た目の割に泣き虫で、楽天的で馬鹿で。
「いっちゃん…俺、大学行けると思う?」
「行きたいところあるの?」
「や……まだ決めてないけんど……ちゃんと高校も卒業して大学行きたい……」
「…………」
馬鹿だけど、なんだかんだで真面目で努力家。
「安心しなよ。」
「…?」
だから、嫌いになれない。
「その頃には、僕と同じ大学に通ってるよ。」
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