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甘い考え
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とんだタイミングで、眼鏡母が帰ってきた。
最初は眼鏡のお袋さんの俺への食いつき様にびっくりしたけど、あの後、眼鏡と眼鏡のお袋さんは二人して部屋を出て行ってしまった。
ぽつんと部屋に一人取り残され、聞こえてくる眼鏡のお袋さんの怒鳴り声にハラハラしながらも、あいつが部屋に戻ってくるのを待っていた。
「にしても…」
眼鏡のお袋さん、まじで美人だな…なんつーか、口元のホクロがエロい。それに、真っ黒い瞳と整った鼻筋は眼鏡に似てる。やっぱり親子なんだな。
なんて事を考えていると、部屋の扉が開いた。
「新、今日どうする?」
「え?な、なにが?」
「泊まってく?」
「うえっ⁉︎」
扉からひょこりと顔を出す眼鏡が言った一言。
いつもなら当然の様にこのまま泊まって行くという流れになるのだが、なぜか今日は返事に戸惑う。
「けど…お前のお袋さんに悪いし…」
眼鏡の家に遊びにくる事はこれまで何度もあった。
だけど、今日みたいに眼鏡のお袋さんに会う事はなかった。もちろん眼鏡の親父さんにだって一度もこの家で顔を合わせた事はない。
つまり、せっかくの家族水入らずの空間に俺が邪魔するわけにはいかない。
「今日は……」
「………………」
今日は帰る。と言おうとすると、眼鏡が部屋の中へと入って来て、俺の目の前で足を止めた。
「今日はすき焼きだってさ」
「へ……」
我ながら、間抜けな声を出してしまった。
眼鏡が俺の頭をガシガシと強く撫でて来て、俺と同じ目線の高さになって、顔を覗き込んでくる。
「お前の事、もっとよく聞かせろって。あの人うるさくてきかないんだよ。」
「…………」
「それに、泊まってくのなんていつもの事だろ?朝早めに起きて、お前の家行って学校の準備して、それから一緒に登校すればなんの問題もないだろ?」
「………問題とか…そういう事じゃ…」
もしかして、気使ってくれてるのか?さっき結構重い話ししちまったし………
もしそうなら、尚更申し訳なくてここには居られない。
「お前の事、俺もちゃんとあの人に紹介したいし」
「……………」
「いい?」
「……っ…ぉぅ」
コクリと小さく頷いた。
眼鏡は「決まり」と呟いてまた部屋を出て行ってしまった。
そして、眼鏡が言った言葉のせいで胸の奥がぎゅぅぅっと苦しくなった。
部屋の外から、また眼鏡と眼鏡のお袋さんの声が聞こえてくる。
仲悪いのかな?お袋さんは怒鳴ってばかりで、でもどこか楽しそうな、そんな二人の会話。
『お前の事、俺もちゃんとあの人に紹介したいし』
思い出した眼鏡の言葉が、また俺の胸を苦しくさせる。
紹介って、一体どういう事だろう。
俺は眼鏡の後輩で、生徒会のメンバーで、背はちっさくて、目つき悪くて、眼鏡に憎まれ口ばっか叩くうるさい奴って言われるかな?
それとも、俺と眼鏡が付き合ってる。そういう紹介をするのだろうか。
「へへっ」
もし、仮に眼鏡が俺との事をお袋さんに伝えて、認めてもらえれば、部屋の外から聞こえてくる二人の会話に、俺も入れてもらえるのだろうか。
そう考えると、少しだけ嬉しくなった。
「成海‼︎母親に向かってその態度はなに⁉︎」
「昔からこうだろ。今更怒鳴る事かよ」
ガシャン、と食器が荒く重なる音と、また二人の会話。
部屋の外と、俺が今居る眼鏡の部屋。その空間は全くの別世界の様で、俺が居る部屋は、なんの音も立てる事無く、とても静かだった。
扉一つ、その扉の向こう側は家族の領域。
「……………」
膝に置いた手を少しだけ握り締めた。
眼鏡のお袋さんが、俺達の事認めてくれたところで、俺は一体なんなんだろう。
別に、眼鏡と結婚出来る訳でもないし、ましてや、子供が作れる関係でもない。
認めてもらえるなんて、甘い考えだ。
「あいつ……どうする気だ?…」
不安と緊張が募り始めた頃、再び部屋の扉が開き、眼鏡に呼ばれ俺はダイニングへと向かった。
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