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今すぐに
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結局、その日は新から連絡は来なかった。
色々と心配だけど、もう少しだけ、あいつからの連絡を待つ事にした。
新が自分の家に帰った次の日、俺は珍しくいつもはあまり行かない街の図書館に行き、これからの進路に必要な情報を集めていた。
休日とはいえ、この日 図書館を利用する人の数は多く、俺は人気の少ない方の席に座り、黙々と本を読んでいた。
久しぶりに静かな環境の中、こうして読書をするのも中々良い気分だった。
ペラリとページをめくるたびに、本から発せられる独特のにおいがまたいい。
新は図書館とか苦手そうだなぁ。
「ん…?」
ページをめくった際に、机の上に置いておいた携帯が光る。
確認してみると、メールが一件受信されていた。
送り主は新だった。
冒頭には、“どこにいる?”と書かれており、その次に“会いたい”と綴られていた。
読み始めたばかりの本を閉じ、席を立った。
元の場所に本を戻した後、図書館を出て携帯を耳に当てる。
「もしもし?」
電話をかけると、1コールもしない内に新が電話に出る。あまりにも新が電話を取るのが早かったから少し驚いてしまった。
「どうした?」
図書館を出て、左へ曲がる。
駅まで続く道を真っ直ぐと歩いた。
『今どこ?』
少し不機嫌そうな新の声。
気になったけど、その時は聞かずにいた。
図書館から今出たところだと伝えると、新は少し黙った後、ゆっくりと母親との事を話し始めた。
『母さんが泣いてた』
「……そっか」
『んで……めちゃくちゃ謝られた』
「……ん」
そう小さく呟いた新の言葉を聞いて、やっぱり、あの人の本心はそうだったのか。と少し安心した気持ちになる。
続けて話しを聞いた。
電話越しに、今あいつはどんな顔をしているのだろう。
『……俺、ずっと嫌われてると思ってたんだ』
「そう?俺にはそうは見えなかったよ」
『は?…絶対嘘だろ……適当言うな』
「俺がいつ適当な事言ったの」
『……………』
そう返すと、新は黙ってしまった。
母親の本当の気持ちを知って、落ち込んでいるのか喜んでいるのかよく分からない新の声。
こういう時、なんて言えばいいのかな。
『まぁ……とりあえず母さんとはちゃんと話せた……』
「ん。良かった」
駅がすぐそこに見えてくる。横断歩道を渡ろうとしている人集りが、交差点の前に出来上がっている。
雑音に邪魔されるのを避ける為、一旦交差点から離れ近くにあったコンビニの前で電話を続けた。
「それから? さっきの会いたいってメールは何?」
少しからかうようにそう言ってみると、新はぐっと言葉を詰まらせる。
そして、おずおずと遠慮気味に口を開いた。
『……母さんに……お前と別れろって言われた』
そう言われた瞬間、丁度近くの交差点が青に変わり、軽快なメロディーがその場に鳴り響いた。
「…………え?」
一瞬なんて言われたか分からなかったが、その後もう一度新が母親に俺との交際について言われた事を詳しく話してくれた。
新が母親に言われた事は、普通の人として生活してほしい。普通の恋愛をして、普通の家庭を築き、普通の幸せを手に入れてほしい。だった。
普通とはなんなのか、新自身も考えたそうだ。
新がその時母親になんて答えたのか、少し不安になる。
「じゃあ、別れる?」
『………………』
なんて、冗談だとしても言ってみると案外怖いものだ。
空が曇り始め、再び駅へと向かおうとその場を後にする。
新はまだ黙ったままだった。
「…………新?」
ポツリと、少し雨が降り始めた。
「新はどうしたい?」
今回の事もあって、新の母親から見た俺の印象は最悪だろう。それ以前に、大切な一人息子が男と付き合ってるだなんて、その時点で新の母親が思う普通の枠から外れてしまっているのかもしれない。
「ねぇ……答えて」
普通がそんなにいいものなのか?
そもそも、新はそれを望んでいるのだろうか。
『俺は…………』
こんな事、電話で話すんじゃなかった。
ちゃんと顔を見て、安心したい。安心させてやりたい。
ねぇ、どうしてそんなに泣きそうな声してるの?
『別れない』
「っ、」
胸がどきりとした。
新の真っ直ぐなその言葉が、全身をかけた。
『俺にとっては……お前が普通だ……』
「…………」
『だから……母さんには悪いけど……最後の俺のわがまま聞いてもらった……』
「………………」
『俺は……お前とは絶対別れない……』
「………………」
…………雨が本降りになる。
雨音が鳴り響く中、新のその言葉はなぜかはっきりと聞こえ、ジリジリと胸が痛み始める中、俺はまたその場で足を止めてしまった。
「……いい子じゃん……ちゃんと言えたんだ」
『うるさい……お前今笑ってるだろ』
「ううん、なんで?」
笑うに決まってるだろ。
『お前の事だから……笑うだろ』
「笑わないよ」
そんな事言われたら、嬉しくて笑うに決まってるだろ。
「嬉しい」
『っ……』
お前は今、俺がどれだけ嬉しい気持ちなのか分かってないだろ。
「ねぇ新……」
あぁ……やっぱり電話で聞くべきじゃなかった。
「……今から会いに行ってもいい?」
今すぐにでも、抱き締めたい。
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