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あいつ
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「違いますっ‼︎俺は何もしてません‼︎」
「ちょ、落ち着きって何をそんな…」
「俺は悪くない‼︎」
話しかけただけで真っ青な顔して慌て始められ、挙句の果てに逃げようとしたのか入り口の方へと駆け出した。
けんど、目の前には俺がおる。
突進かと思うくらいの勢いで肩と肩がぶつかる。
「いっ」
「す、すまん、大丈夫か?」
案の定、体格差があるせいで一年はそのまま倒れてしまう。
なんか、俺が悪い事したみたいやん。
「ほら、手ぇ貸しちゃるき立……」
手を伸ばした時、尻餅をついた一年のそばにある体操着に目がいく。
シャツの胸元には、“渋谷”という名前。
「なんで姫の……?」
「あ……っ」
バッ、と一年は体操着を背中に隠す。
姫は今体育の授業中。体操着は着ていっちゅうはずやのに、どうしてここにそれがあるか最初は不思議に思うた。
「違いますっ、違うんですっ‼︎…俺は……っただ返そうと…っ」
「ちょ、返すってどういう」
墓穴を掘ったらしく、更に真っ青になる一年。
その顔を見てようやくどういう意味か理解出来た。
「…盗んじょったって事?」
「っ‼︎」
反応を見れば分かる。
頭の中に渦巻くのはファンクラブの事。
「ん、返して」
一瞬にして、ざわざわと胸の中に嫌な事が思い浮かぶ。
「……違います…………俺はただ好きなだけで」
好きなだけ…それを理由にすれば何をしてもいいと?
「はよう返して」
「これはあんたのじゃないっ‼︎」
「お前のでもないやろが」
「ひっ…」
姫の物が盗られちょった事をいっちゃんは知っちょったはずや。
盗撮の事やってあったのに、窃盗までもされよるとは。
……まさか、いっちゃんには何もないよな?
「とにかく、ちゃんと姫に謝り。センセェには言わんといちゃるき」
体操着を受け取り、姫の机の上に戻す。
一年は立ち上がろうとはせずにその場で膝を抱えて目にいっぱいの涙を浮かべた。
「嫌だ……嫌だ……先輩に嫌われる……っ…」
「はぁ…自業自得やんか」
嫌われる自覚なくてした行動なら、こいつは俺より馬鹿やで。
「上城先輩に殺される……全部知られる……あいつのせいだっ全部あいつの‼︎‼︎」
「おい他は今授業中やて、静かに…」
「俺は悪くないっ‼︎‼︎‼︎これも全部あいつのせいだ‼︎」
「……!」
あいつ…って、誰の事を……
「ぅ、うぅ……」
何かの糸が切れたようにボロボロと泣き始める。
何が何だか訳わからん。目の前でヒス起こさんといてほしいわ……
「とりあえず話聞かせてや。ほら、男が泣くとかみっともないで」
なんて、俺が言えんけどな。
「……っ……ごめんなさい……」
「それは姫に言おうな?ちゃんと謝れば許してくれるって」
慰めのつもりで言うたけんど、一年は静かに首を横に振った。
「……絶対に許してなんてもらえません……俺は…取り返しのつかない事を」
「ははっ、そんな大袈裟な」
たかが体操着一着やん。と続けて言うと、思いもよらぬ返事が返ってくる。
「渋谷先輩と……上城先輩に……怪我をさせたのは俺なんです」
「……ん?」
……なんでここで二人の怪我の話が出る?
二人は階段から落ちたがやろ?
じゃれ合いでもしよって……とかやないの?
「…その話、詳しく聞かせて」
またや。胸がざわつく。
「お二人が付き合ってるのは……前々から気付いてました……」
「おん、まぁ分かりやすいしなあの二人」
どうしてこんな急に嫌な感じがするがやろ。
「でもっ……俺は上城先輩には勝てないから……上城先輩さえいなければって……あいつが…」
何かに気付けてない気がする。
すんごく大事な事やのに、何かを見落としちゅう。
「……あいつって」
……いっちゃん、俺に何か隠してない?
「誰の事?」
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