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敬意⑥真実、そして現実
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雨が降っている。
寮は防音だ。
雨の音がしない。
だから入った。
雨は大嫌いだ。
風呂上がりの躰が冷え始めてる。
温めてくれるのは、お前か、あいつか。
俺には自分の手しかない。
中三の初め。
夜の学校。
テスト問題を盗みに入った。
数学も国語もヤバかった。
付属だからって無条件に上がれるわけじゃない。
日向(ひむかい)朗レベルならいざ知らず、風待家の頭では、補欠の選考にも漏れる。
だいたい中学入学のときだって、親父、いくら積んだんだか。
理事長のやつ、受け取っときながら、
「高校へは実力で行ってくださいよ」
ときたね。
塾と家庭教師と現ナマ使い尽くして、それでも成績は中の上。
持ち上がれるのは一クラス分。
ギリ危ないんだ。
だから危ない橋、渡った。
渡ろうとした。
そしたら見ちまった。
日向朗がやつらに…弄ばれてるとこ…
やつらは俺たちの教室の、教壇の上に朗を置き、そこここ触りまくってた。
「ここ。感じるだろ?」
「ここは?」
「名前呼んでよ名前」
大の大人がメロメロな声を立ててる。
国語、英語、数学。
三教科がこぞって朗を貪ってた。
そりゃ三教科とれるわと、斜に構えてみたけど、泣いてる朗の表情には、喜びも、してやったりも何もなくて、無理矢理なのは一目瞭然だった。
かわいそうでかわいそうで見てられなくなった。
正義感出して飛び出して行こうか。
でも俺、何でここにいる?
テスト盗みに来たんだろ?
そこ突かれたらどうするんだ。
葛藤してる間に朗は達し、
「ああああああっ」
ものすごい叫びを上げた。
「イッたねえ秀才」
「感じるときはタダの人」
「かわいすぎる。かわいすぎるよおっ」
女子から油ブタと渾名されてる西木に頬ずりされて嬉しいほど、日向、ヘンタイじゃないはずだ。
これは暴力だ。
そしてその暴力に、大人たちが夢中になってるうちに、俺はテスト問題をガメ、いつの間にか降り出した雨の中を、走って帰った。
誰にも気づかれなかった。
窓ガラスを伝う雨雫を見つめている。
手のひらは自分に触れている。
あいつらのように執拗で、あいつらのように淫猥な触れ方。
あの夜学んでしまったやり方。
あんな目に遭いながら、それでもテストの結果は日向の方が上だった。
嫉妬より、かれの忍耐への賛讃がまさり、俺はいつしかかれに恋をしていた。
かれのためなら何でもやった。
かれを笑いものにした奴らには、子飼いの不良を差し向けた。
守って守って守ってるうちに気づかれたかったけど…
気づかれたくない気もしてた。
奴を抱いたら多分俺は、あいつらみたいに振る舞う気がしたから。
俺はノーマルだ。
ゲイのセックスの手本がない。
無理にやろうとすれば、あの形に似てしまう。
俺はそれが怖かったのだ。
昻まりは最高点まで達してる。
生真面目で、端正な顔立ち。
いまはイケメン小僧とおねんねだろう。
そのきれいな顔めがけて放っ
つ寸前のところでドアチャイムが鳴った。
「くそおっ」
悪態ついてビューアーを見にいく。
オートロックは外で、雨ざらしになる。
そしてビューアーの向こうには奴がいた。
びしょびしょの雨に濡れて。
美しい瞳。
すらりとした体型。
いや。
俺はこいつが幼児体型の頃から知ってる。
「朗」
ビューアーの向こうの濡れねずみが笑む。
「入れてくれないの?」
スイッチが壊れるほどのカで、俺はインのボタンを押した。
俺たちの話はこれで終わりだ。
十五年もかけておれたちは一つになり、二年ももたずに別れた。
死が二人を分かつまで、の愛には育たなかった。
ただ一つ、俺たちがしたいい事といえば、若い友情のあと押しをしたことだろうか。
二人が不可分だと思っていた時期の俺たちだったから、めいっぱい演じて涼くんに愛想づかしすることに決めたのだ。
冷たく振って、オレンジの君の腕の中に落とす。
その作戦だった。
まあ、その前に向こうから、もう会いませんと言われたけど。
俺たちは今も同じ会社にいる。
俺は結婚し、奴は今三人目の男とつきあってる。
今度こそ、添い遂げられるといいな。
祈ってる。
完
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