アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
お題「最後のデート」
-
何が起きた…?
目の前にいるのは、俺が愛してやまない恋人で。
もうすぐ付き合って3年…そして、一緒に暮らし始めて2年が経とうとしている。
3年。長いようできっと短い。
俺がいま29歳で、靖章は27歳で。これから先の人生を考えたら、3年という月日は短いだろう。
だけどそれでも、その3年という短いであろう時間を俺たちはそれなりに過ごしていて。一緒に暮らすようになってさらに、食の好みも生活リズムもお互いの癖も、色んなことを理解しあって支え合って今日までやってきたはずなんだ。少なくとも俺は、そう思ってた。それはこれからも、ずっと続くんだろうって…。
「ヤス…今、何て言った?」
聞き間違いかもしれない…聞き間違いであってほしい…
そんな僅かな期待を込めて、もう一度靖章の様子を伺う。
「……だから…もう別れようって言ったんだよ」
先程聞かされた言葉が、もう一度俺の耳に響く。
なんで?どうして?俺の何がいけなかった…?
聞きたいことがたくさんあるのに、それが俺の口から音になることはなくて。
それでも、何か言わなければと顔を上げると、俯いたままの靖章が少しだけ震えているのが分かった。
「ヤス…」
名前を呼んでその姿を目にしてやっと気付く。
そう言えばここ数日、靖章の様子がいつもと少し違っていたことに。
「…そう言えばお前、先週の日曜日、元嫁に会ってきたんだよな…?何か言われたのか?よりを戻そうとか…」
「違う」
靖章は元々、普通に女の人と結婚していた。それはよくありがちな“親の決めた結婚”というやつで、お互いに愛情が湧かなかったことと靖章がゲイであるという事実、その事実を知った元嫁さんからの離婚の申し出。「孫の顔が見たい」という親の願いを汲んで出来た子供は、双子の男の子だったらしいがその子供達も嫁さんが引き取っていた。
「じゃああれか?お前、子供いたもんな…やっぱり家族ってやつが恋しくなっ「違う…」…なら他に誰か「違う!!!」…だったら何なんだよ!!!」
何度も遮るように否定する靖章が何を考えているのか分からなくて、つい大声を上げてしまう。
「理由も教えてもらえずに、ただ突然別れようなんて言われた俺が、それで納得するとでも思ってんのかよ?それとももう、俺に飽き「………ないだろ…」」
「は?」
「そんな訳ないだろ!!だったら凰祐は…!」
「なんだよ」
「凰祐は…自分と血の繋がらない子供でも愛せる?俺と、あいつの血が流れてる子供でも愛せるのかよ?…できないだろ?」
勢いに任せるようにそう吐き捨てた靖章は、それでもとても悲しそうな顔をしていた。
血の繋がらない子供?
その言葉を聞いてハッとする。
「お前、もしかして…子供…」
その問いかけに靖章が顔を逸らす。
やっぱり。多分、いや絶対。
…この一週間、ずっと俺にどう切り出そうか悩んでいたんだろうか。
「頼むから、話して?」
そう言って顔を覗き込めば、今にも泣きそうな表情の靖章と目が合う。
「…本当は、黙ってるつもりだったのに…ごめん…。あいつ、再婚するんだって…。ただ、相手に、“子供は勘弁してほしい。無理なら再婚の話は無かったことにしてくれ。”って、そう言われたみたいで…。だから俺に、引き取ってくれないか?って言ってきたんだ。あいつは…子供達よりも自分の幸せを選んだ。だけど俺だってあの子達の親である以上、やっぱり可愛いと思うし、断る理由なんかどこにもなくて…ただ、このままだと凰祐にまで迷惑がかかるから…だから…」
途切れ途切れに教えてくれた話は、俺なんかが入り込んでいいようなものではなくて。それでも、そんな風に傷付いているこいつを簡単に見捨てられるような、そんな軽い気持ちで一緒にいた訳じゃない。
「分かった。いつ?」
「……」
「子供達。引き取りに行くの、いつ?」
「来週の…土曜」
「そうか。…明日、お前も休みだったよな?じゃあデートしよう」
「……え?」
「デート。二人で、最後のデートをしよう」
「……最後…」
そう呟いた靖章は、力なく俯く。その姿がなんだか可愛くて意地悪をしたい所だけど、今の俺にはそんな余裕はない。
少しでも早く、安心させてやりたかった。
「そう、最後だ。悪いけど俺は…お前がいくら頑張ってくれても、お前を手放すつもりなんてないんだよね。だから、さ…俺達が二人っきりで…恋人同士で居られる間の最後のデート」
その言葉に、キョトンとした表情でこちらを向く靖章の頬をペチペチと叩く。
「痛い…」
「痛いじゃないよ。何その顔」
「や、だって…」
「だってじゃない。何?俺に気ぃ使ってんの?なんなの?俺と血が繋がってないから何?お前とは繋がってるんだろ?俺は何があってもお前と別れるつもりはないし、お前は子供達を見捨てるつもりなんて最初からない。だったら二人で育てていくしかないんじゃねぇの?正直さ、言い方は悪いけど俺にとっちゃ他人の子だし可愛いだけじゃ子供は育てらんない事くらい理解してるつもりだ。だけど、それ以上に俺はお前を失いたくない。
だからさ、家族になろう。血の繋がりなんて関係ないって、子供達がそう思えるように精一杯愛を伝えるから。俺たちは男同士だから、子供なんて一生むりだと思ってたから…だから俺、頑張るから…」
“別れたいなんて言うなよ”
その言葉は、しがみつくように抱きついてきた靖章の涙にかき消されてしまった。
「…ごめ…ごめん…、ごめん。あ、ありがとう…ごめん…」
「分かったから、な?それでいいだろ?お前がもう俺のことを好きじゃないなら話は別「そんなわけないだろ…」…お、おぉ。なら問題ないな?」
さらにぎゅうぎゅうとしがみついてくる靖章を、そっと撫でる。
いつもは男らしいその背中が、今日は少しだけ頼りなく見えたから。
「明日どこに行きたいかとか、何したいかとか、今日中に考えておけよ?」
「…うん」
やけに素直に返事をする腕の中の恋人が、とても愛しくてたまらない。
なぁヤス。独身最後のデート、どこに行こうか?
俺はとりあえず、指輪でも買いに行こうってお前を誘うつもりだけどね。
END
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 1