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2 出掛け(日常 流衣、伊織、海、要、誠一郎)
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「……ごめん海君、俺外出てていい?キモチワルイ…」
「いいよ。大丈夫?」
「平気…外の空気吸ってくる。」
「あ、誠一郎連れてってくれる?」
「おん。」
伊織は誠一郎を受け取り、空いた手をヒラヒラと振って玄関へ歩いて行く。
物色開始17分。
早くも1人リタイア。
まぁ、仕方ないよね。
いくつもの有機物の腐った臭いが混ざっているんだから。
隣人に配慮して窓も開けられないしね。
伊織は誠一郎と共に外へ出て行った。
ガサガサとゴミと荷物をかき分けて、色々なものを跨ぎながら子供の服を探す。
正直、ほとんど使えなさそうだけど。
あー、赤ちゃんの抱っこ紐。
見つかったー。
よかった、これは使えそう。
荒れた部屋で、辛うじてここが子供がいる部屋だったことがわかる。
いくつかの絵本やヒーローのフィギュア。
少し汚れているけれど新しい種類のものだから、きっと要が買ってもらったものなんだろう。
これを買った時、やっぱり幸せだったのかな。
「要、持って帰りたいものをまとめておくんだよ。それ以外は全て捨てると思って。」
「うん。わかった。」
要はヒーローのフィギュアの胴体をぎゅっと握って持ち上げた。
やっぱりそれ、大切なものなのね。
その部屋にちょこんと座ると服とおもちゃを一箇所に起き始めた。
自分で必要なものはまとめられそうだね。
さすがお兄ちゃん。よくわかんないから任せたよ。
他人の家とはなかなか入ることもないもので。
興味本位で色々と物色してみる。
本や雑誌を押し退けて、さらに一番奥の部屋に黒い机を見つけた。
埃かぶった机。
本や書類を退けて見ると、一枚の紙と写真。
写真を見ると、小学生くらいの男の子と5歳くらいの小さな男の子。
そして、柔らかそうな真紅のソファに座る白髪に近い金髪を緩やかにアップにまとめ、ブルーの瞳をした明らかに異国人の女性と、鼻筋が通った紳士的にスーツを着こなしている男性。
この男性。流衣に似ている。
一緒にあった紙を見ると、我が家の住所。
え?
どういうこと?
「流衣、これ見て。」
「なにー?」
写真を手渡すとマジマジとそれを見て流衣は、あぁ、と小さく声を漏らした。
「…俺だね。これ。」
「んん?」
「この子供、俺だ。両親と一緒に写った写真なんて、まだ残ってたんだ。」
……意外、というか、なんというか。
あの家では、九條家の家族写真というものを見たことがなかった。
流衣の口から両親の話を聞いたこともほとんどなかったし。
でも、写真を見る限り微笑ましい家族というか、普通の家族のようにみえる。
「……仲良かったのね、ご家族と。」
「……うーん、どうかな。」
「お母さんは、どこの国の人?」
「イギリスって聞いてる。なんで日本にいたのかは知らない。」
「綺麗な人だね。」
「そうだね。声も姿も美しい人だったよ。俺が14.5の時に死んだけど。あの人以上に美しい女は、俺は今まで見たことないね。」
流衣は皮肉っぽく笑い、写真を机に戻した。
持って帰らないのかな、その写真。
住所が書かれた紙は、ぐしゃりと丸めると自身のポケットにねじ込んだ。
「調べたみたいだよ、俺の家。向こうで興信所の報告書とかの書類を見つけた。俺に会ってどうするつもりだったんだろうね。」
「……なんだろうね」
「この様子じゃ、ほとんどこの家にはいなかったんだろうし。クズもここまでくるといっそ清々しいね。」
流衣は、こっちを向いてニコリと笑って見せたが、その瞳の奥が笑ってないのは明らかで。
うなじが痙攣するような寒気を覚えた。
あー、こわいこわい。
「さて、特になにもないね。」
「…そうだね。ほとんど使えないというか、捨ててしまいたい。」
「この部屋は業者呼んでまるごと捨ててもらおう。解約もしないとね。」
「借主いないけど、解約できんのかな。」
「まー、死んでるからね。弁護士に頼むよ。」
「帰りに足りない分買ってくれる?服とかオムツとか。」
「もちろんよー。足りないものはなんでも買って。世話かけるね、海君。」
「こちらこそ。」
流衣は首に片手を添え、ゴキリと音を鳴らして首を傾けた。
もう撤収だね。
体を玄関に向け歩き出そうすると、足元にあった黒い本に指先をぶつけた。
「The abyss gazes also into you.(深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ)」
「…フリードリヒ・ニーチェ。」
「You got it!(その通り!)俺の母が好きだった本だよ。」
黒い本には、Beyond Good and Evil (善悪の彼岸)と書かれていた。
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