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2.裁判所(日常 流衣、伊織、海、要、誠一郎)
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「では、後見人制度の説明は以上です。これから、面談にかかる詳細についてお聞きいたします。」
「はい。」
「まず、九條流衣さんにお聞きいたします。何故、彼らの後見人となることを申し出られたのですか?」
おじさん達はまたペラリと紙をめくる。
何が書いてあるんだろうね、あれ。
「弟の面倒をみるのに、なにか特別な理由がいりますか?弟が困っているから手を貸しただけのことです。」
「その…あなたは未成年者の存在は本件が発生するまでに知っていましたか?」
「いいえ。知りませんでした。」
「元々の関係性としてはかなり希薄だと思われますが、なにをきっかけに引き受けようと思われたのですか?」
「だから、弟だからです。特別何か、理由はありませんが。あえて言うなら、彼は彼自身の手でうちのインターホンを押して、自らの意思でうちに来て、自らの意思で私たちと居たい、と言ってくれたからですかね。」
「ほぉ……その、例えば、彼が来なければ養子縁組を考えられたりしたことはありますか?」
「………は?なんですか?質問の意図がわかりません。」
「その…えっと…」
言い淀むおじさん。
結構失礼じゃないの?その質問。
チラリと伊織を見てみるが、伊織はなにを言われているのかわからないのか、まだおじさんの頭を見ていた。
伊織、話を聞いてて。
「あー、俺らが同性愛者だから。子供が欲しくてその代わりに彼らを引き取ったのかってことですか?結構ゲスいこと聞くんですね。」
「なんっ……そのような意図はありません!決まった質問をしているだけです!」
「あなたがたが、同性愛者にどのような偏見をお持ちなのか存じ上げませんが、私達は子を成したいと思ったことも、子を欲したこともありません。私は、彼を愛していますし、彼と私の個性を超えるものを求めたことはありません。」
「………。」
「私は、彼らが1人の人間として、生きることを求め私の所へ来て、私の顔を見て共に生きたいと、そう言ったから生きることにしたまで。それ以上の理由はありません。それは、ここにいる全員の認識です。」
「はぁ…なるほど。」
「私は金は稼いできていますし、家のことを全て管理している海がいて、伊織も家にいてくれて、私を支えてくれています。彼らを育てるのに問題は何もないです。だからこそ、私は彼らを受け入れられます。私1人なら、お断りしていたと思います。彼らがいるから私はこの子達を育てられると思っています。」
「貴方は身元も分からない海さんを保護されている状態にありますが、それも何か意図があってのことですか?」
「いえ、それも特に意図はありません。橋の下の隙間で衰弱しているのを見つけたので手当てして、彼がたまたま家事が得意だったので任せているだけですが。」
「他にも、そういった状況の方はいると思いますが、今後も支援されるおつもりですか?」
「今のところその気持ちはありません。」
「何故、彼だけを救われたのですか?」
「あの……なにを言わせたいんですか?私に。彼を救ったことと弟を引き取る事は何か関係あるんですか?」
「…私達としましては、その…子供への影響も考慮しなければならないので、それはご理解いただきたい。」
「…はっ。私達が同性愛者であることが、彼らに影響をして、彼らが同性愛者になってしまうのが問題であると?それこそプライバシーの侵害でしょう。いや、偏見か。それは彼らも考えるでしょうし、結果それが私達と同じ性的趣向であったとしても、それは個性なのでは?現に私達に何か問題があるとお思いですか?どうぞご指摘下さい。今後の参考のために。」
「…前例が少ないのですよ。同性のパートナー関係にある方や身元不明の方がいるご家庭への未成年後見人の審議というものが。どうか、ご理解いただきたい。」
「…失礼しました。冷静さを欠いた発言でした。」
「いえ。こちらこそ失礼致しました。」
流衣、ごめんね。
ありがとう。
本当に。
「次に、経済状況についてお聞きしますが。」
「それは、こちらの海がお答えします。家の収支や管理は全て彼に任せていますので。」
「あ、はい。」
おおっと。
急にこっちにきた。聞いてないよ、流衣。
こっちにウィンクを寄越してくるけど、大丈夫なのか、本当に。
机の上に通帳やら家計簿を広げ、指を刺される。
「えー、まだ未成年者の実際の通帳からの入出金はないようですが、今後はどのようにされる予定ですか?」
「えっと…私は要や誠一郎がいくら持っているのか知りませんし、私は流衣から任された範囲で彼らの世話を同時にするだけなので、出納簿や入出金は家のお金から出すつもりですが。」
「申立人は、どのように?」
「私も海と同様に子供から金をもらう気はさらさらありません。子供から金をもらうほど困ってないんで。彼らの金は両親が残したもの。なら、彼らが成人後に好きに使えばいい。子供であるうちは私の弟なので、私の生活範囲内で生活してもらうつもりです。」
「食事などはどのようにされていますか?」
「それは全て私が作っています。1日3食。栄養面は考えていますし、問題はないと自負しております。離乳食も作っているので。」
「その他の生活面も貴方がされているのですか?」
「はい。基本的な家事は私の仕事なので。」
「それに対して、賃金の発生は?」
「賃金という形では頂いていません。ただ、ご飯も頂いていますし、生活をさせて貰っているので。」
「なるほど。では、ほとんど貴方が主夫という形になられるのですね。」
「はぁ…そうですね。そのようなものかと。」
「分かりました。」
ガリガリと何かを書き込むおじさん。
大丈夫だったかな。
「佐野さんにお聞きします。未成年者との関係をどのように考えておられますか?」
「へ?俺? あー…えっと。弟ですかね。」
「?? えー…生活をしていてどのように接しておられますか?」
「特に意識していませんが。なんとゆーか、流衣の弟だなーっていうか。海君が主に面倒見てくれるから、そのお手伝い出来ればいいかなー、くらいかな。」
「何か困ったことは?」
「特にないっすね。誠一郎は海君が見てくれてるし、普通に可愛いし。要と遊ぶくらいで困ったことはないかな。」
「なるほど。」
「なーなー、俺からも質問いい?」
あ、やめて伊織。
それは
「はい?なんでしょう?」
「それカツラ?浮いてへん?」
ブフッ!
流衣とチャイルドカウンセラーの女性が思い切り吹き出した。
神妙な空気から一転、気まずい空気が流れる。
いや、そちらの女性も吹いたんだから同罪だよな?
となりの要を見ると、要もジッとおじさんの頭を見ていた。
やめてあげなさいよ。
「ごほん…んん……」
「あ、聞かん方が良かった?すまんな。気になって話が入って来なかったもんで。」
「ふふ…佐野さんは、無邪気な方なのね。」
「すみません、黙ります。」
「お話が入って来ないってことなんで、ここからは私から話してもいいかしら。」
女性は紙の資料をまとめて、少し身を乗り出して要の顔を見つめた。
「九條要君。貴方はお兄さんたちと居て、楽しい?」
要は私の手を握ってきた。
目線は女性の方に向いているが、手は私の手をぎゅっと掴んで離さない。
大丈夫だよ。
「…楽しい…です。」
「お兄さんのご飯も美味しい?」
「海君のご飯はとても美味しいです。今まで食べたものより何倍も」
「いいなー。おばちゃんも食べてみたい!要君、何か困ったことはある?」
「困ったことはないです。みんなが居てくれるから。」
「お父さんとお母さんのことは分かる?」
「…死んじゃった。悲しいけど、けど、みんなと会えたから。」
「そうね。貴方は今後どうしたい?」
「みんなと一緒にいたい。流衣は遊んでくれるし、お仕事頑張ってて。伊織も遊んでくれて、この間は英語教えてくれて。海君はお母さんよりお母さんで。」
「まぁ、素敵ね。」
「うん。僕はみんな大好き。この間ペンも貰ったんだよ。僕のペン。僕は流衣の弟で、家族の1人なんだって言うペン。ずっと一緒にいたい。」
お母さんよりお母さんってどういうこと?
褒めてる?それ。
でも、さすがカウンセラーだね。
要が普通に話し出した。
「もういいんじゃないかしら。九條さんのことも、海さんのことも、佐野さんのことも、問題ないとみていいでしょう?本人がこう言っているのだから。」
「それは裁判所が判断することなので。では、以上で終了します。結果はまた、弁護士さんへお伝えいたしますのでよろしくお願いします。」
おじさんは書類をバタバタとしまい始める。
あぁ、終わったのか。
おじさんたちはさっさと立ち上がり、部屋を出て行ってしまう。
なんというか、呆気なく終わった気がする。
最後に残った女性はニコリと笑って私に会釈した。
「お会いできて良かったわ。とても嬉しかった。」
「こちらこそ、ありがとうございました。」
「私はね、廊下で貴方に会った時にもうすでに決めてたの。問題ないって。」
「え?」
「あんなにも、しっかりと繋がれた手に嘘はないわ。異性の夫婦でも、女性の母親でも出来ない人はいるからね。」
「はぁ。」
「海さん、就籍申し立てってご存知かしら?貴方のように特別な理由で戸籍のない人は、後からでも戸籍を取得できるんですよ。」
「え?」
「今のままでは病院も行きづらいでしょう?是非就籍申し立てを検討してください。ステキなご家族のためにも。」
女性はニコリと笑って、要の頭を撫でて部屋を出て行った。
「なんや、スーッと終わったな。」
「…っは〜。いやいや、伊織ちゃん。俺ちょー頑張ったよ?」
「そうね。流衣、お疲れ様。」
「ありがとう、流衣!」
「伊織ちゃん、あの質問はなしでしょ。堪えきれなかった。あー、思い出しても笑える。」
「いやいや、あんなんオジサンが悪いやん。ツッコミ待ちやったやん。俺は間違ってないやろ。」
「うんうん。伊織ちゃんが正しい!ほんと、助かったよ。」
流衣は伊織の頭をポンポンと撫でる。
まぁ、実際いい仕事したと思うよ、伊織。
空気変わったもん。
要は私の手をパッと離した。
要を見るとニコリと笑って、ポケットからペンを取り出した。
「みんなありがとう。大好き!」
要がぎゅっと握るペンは、窓から入り込む太陽の光を反射してキラリと光った。
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