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1.海と光(日常 流衣、伊織、海、要、誠一郎)
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「海ーーーーーー!!!」
「うみーーーーー!!!」
午後 14:34 快晴
某海岸
海の家が併設された民間管理の海辺の駐車場に車を止めて、飛び出していったのは伊織と要。
砂浜をザクザクと思いっきり砂を巻き飛ばしながら海の方へ走っていった。
あーあ。
転けるなよ。
誠一郎と私はゆっくり行こうね。
8月も後半なのに、まだまだ暑い。
お腹に誠一郎を抱っこヒモで抱えながら右手に日傘、左手には水筒とちょっとしたおやつとビニールシート、更にはタオルを入れたバッグを持って車から離れる。
すると、すぐに左手の荷物を持つ手に手が重なってきて、その荷物を奪われる。
「流衣。」
「荷物多いのに大変でしょ。そう言う時は、俺にいって。」
「あ、ごめん。ありがとう。」
するりと荷物を持って、伊織たちのところへ早歩きで歩き出す流衣。
助かります。
遠くの方で伊織と要が靴を脱いでいるのが見えた。
「ビニールシートここでいい?」
「うん。ありがとう。」
「海君、海入らへんの?」
「誠一郎居るから。荷物番もいるし、ここから見てる。落としたらまずいから、貴重品はここに置いていきなよ?」
「足だけなら大丈夫やんかー。行こうよー。」
「誠一郎落としたり、転んだりしたら大変だから。それに、私は海、眺めたいの。」
「うーん…わかったぁ。」
伊織はビニールシートの上に脱いだ靴と靴下、車の鍵と財布、スマホを置いて、海で遊んでいる要のところに歩いていった。
さて
誠一郎君、君も降りて一緒に海眺めようよ。
誠一郎を降ろして、胡座をかいた膝の上に座らせるとそのまま落ち着く誠一郎。
ぴったりハマるね、君。
もうちょっと抵抗とかないの?逆に。
心地よい座椅子にでも座るかのようにどっかり座りこんだ誠一郎は、そのまま背中と頭を私のお腹の方によりかけてきた。
おお、落ち着きすぎだろ、お前。
抱っこヒモを隣に置いて横を見ると、隣に座ろうとする流衣。
おや?君は海行かないの?
「流衣?流衣も行ってきな?伊織と要が寂しがるよ。」
「でも…」
「私は海、見てる方が好きだし。誠一郎と二人で仲良くしてるから。」
「んー……ごめんね?ちょっとだけ、いってくる。」
流衣もゆっくり靴と靴下を脱いで、財布とスマホを置いて伊織たちのいる海へ向かう。
優しいね、流衣。
でもね、君が伊織達と遊んでる姿を見ている方が私は嬉しいかな。
伊織と要は波打ち際で膝くらいまで海につけながら、海の水を飛ばし合っている。
そこに乱入する流衣。
あーあ
あんまり濡れすぎないでね。
タオル2枚しか持ってきてないんだから。
そんな眺めも含めて
広い海、遠くまでを眺めてみる。
あぁ、水平線がやや丸みを帯びているように見える。
この海を越えれば、知らない国へ辿り着くのかな。
水面は太陽の光を反射してキラキラと光る。
奇しくも私の名前と同じ"海"。
私の名前は流衣がつけてくれた。
私は流衣に拾われた時、身に付けるものも、自分自身さえも何も持っていなかったから。
その由来は、私が発した言葉。
今でも覚えている。
『貴方の瞳、海のようですね。美しい。』
本当にそう思っただけで、思わず口にしていた。
なんの意味もなく、ただ、流衣の瞳が美しかったから。
海を見た記憶も定かではなかったし海がどんなものか理解していたかどうかも怪しかったけど、わずかに残る脳の記憶に、それが海だと、そしてそれが美しいものだと、本能的に感じていた。
でも、今目の前に広がる海はやや灰色味を帯びた深い青。
流衣の瞳とは似ても似つかぬ色。
流衣の瞳の海はどこにあるんだろう。
「あっ!あー、あ!」
「あ、ダメダメ。伊織の靴下食べないで。」
「あー!」
「なんでも食べちゃダメだよ、誠一郎。お腹壊すよ。」
「あ、あい、う。あいっう。」
「ん?何?」
「あいっく。あいく!」
ペチペチと私の足を叩きながら、あいく、あいく、と口にする誠一郎。
なにそれ。
誠一郎のお腹をなでなでしながら、近くに置かれたバッグの中からジュースが入った哺乳瓶を取り出す。
「ほれ、喉乾いたろ。誠一郎。」
哺乳瓶を見るや否や、すぐに食いつく誠一郎。
ゴキュ、ゴキュ、といい音。
喉乾いてたね。
「海君!見てみて!」
海の方から走ってきた要。
握った拳を突き出してくる。
ゆっくりと開かれた手の中には、海で研磨され、表面がザラザラになった水色のガラス。
いわゆる、シーグラス。
「わぁ、綺麗だね。」
「これ、海君にあげる!綺麗だから!」
「おや?いいの?ありがとう。」
「あいく!あいっく!」
「あーダメダメ、これは食べ物じゃないよ。」
「あ、誠ちゃん、海君って言ってる。」
「へ?」
「あいっく!あいく!」
「ほら。かいくん、って。」
あ、そういうこと?
私のこと呼んでるの?これ。
なにそれ、可愛いんですけど。
「良かったね!誠一郎!海君の名前言えるようになったんだね!」
「要ーー!!クラゲやー!!」
「え?どこどこ伊織ー!!」
要は伊織に呼ばれて海の方へ走って戻っていった。
綺麗だね、シーグラス。
でも、これが落ちてるってことは、ガラスも落ちてるかも?
足切らないかな。
気をつけてほしいけど。
「あいく、あいく。」
「はいはい、なぁに、誠一郎。」
誠一郎のお腹をポンポンと叩きながら、哺乳瓶をバックに戻す。
誠一郎はキャッキャと笑って体を揺らした。
「…あー、疲れた。休憩。」
「伊織ー!ヤドカリィ!」
「休憩やー!もー疲れたー!」
「えー?!」
「あ!要!みてみて、ちっちゃなタコ!」
「え?!どこどこ?」
少し離れた岩場で遊んでいる要と流衣。
フジツボとか、貝殻とか、毒持った生き物とかいそうな場所にみえるけど。気をつけろよー。
伊織はビニールシートに戻ってきて、どかっと座った。
「もーあかん。子供の体力舐めとったわ。」
「流衣はまだ遊んでるね。子供というより伊織の体力が無いんじゃないの?」
「あら、言ってくれるやないか。海君も家におるんやから俺と変わらんやろ?」
「私は家事でカラダ動かしてるからね。流衣と一緒にジムに行ったら?」
「いやや、なんでわざわざそんな辛いことせなあかんの。夜の運動なら結構やってるから大丈夫やし。」
「流衣はジム行ってから伊織と夜の運動してるみたいだけどね。」
バッグの中から水筒を取り出し、伊織に手渡す。
伊織は、お、ありがとー、と返事をしながらそれを受け取り蓋を外した。
まぁ、そう思うと、流衣結構体力あるね。
今も全然辛そうじゃないもんね。
体も締まってて、いい体つき。
まぁ、健康は大切だからね。
伊織のためにも。
「あ、せや。みてみて。」
「何?あ、ピンクの貝殻。」
「桜貝。こんな汚い海にも桜貝なんかあるんやな。」
「…伊織はこの海より綺麗な海、知ってる?」
「おん。そら、いっぱいあるやろ。この海はそんなにやん。」
「流衣の瞳の色をした海、知ってる?」
動きが止まる伊織。
あれ?変なこと言ったかな。
あ、誠一郎。
寝るならタオルの上においてあげるよ、膝の上で寝ないで。
「………知らんな。あんな水色の海なんかあるんかな。」
「やっぱりそうだよねぇ。」
「海君…何か思い出したの?」
「え?うぅん。なんとなく、そう思っただけ。特に意味はないよ。」
ビニールシートの上にタオルを2枚重ねておいて、その上に誠一郎を横に寝かせてあげる。
誠一郎にかかるように日傘の向きを変え、固定する。
「……海君、これあげる。」
「え?いいの?」
「おん。」
渡される桜貝。
本当に綺麗なピンク色。
可愛いね。
「……どこにも行かないでね。海君。」
「え?あ、うん。誠一郎もいるし、荷物もあるし、貴重品も預かってるからこのままここにいるよ?」
「…………見えなくなったら、俺、探すからな。何処までも。いつまでも。」
「え?…う、うん。ありがとう。」
伊織は水筒をバッグに戻してスッと立ち上がり、流衣と要が遊んでいる岩場の方へ歩いていった。
伊織、ありがとう。
まだ、ここに居させてもらうよ。
大丈夫。
大丈夫だから。
手のひらのシーグラスと桜貝をキュッと握りしめた。
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