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僕の現実問題
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夕方になったからか、ちらほらと帰宅する生徒が増えてきた。
ヒトミとかクラスメートに会ったら大変だからな。早く帰んなきゃ。
そう思っても、行動にするには限度があるわけで。
結局、明らかに急いでいない速度のまま歩き続けて一番最悪の状況に陥った。
「……アズマ?」
「………ヒトミ。」
神様のバカヤロー。
ヒトミの口が小さく開いて、言葉を紡ぎだそうとした。
『今日学校来なかったな。どうしたんだ?』
ヒトミの口は、確かにそう動いた。
でも、結局その言葉が音になることはなく、代わりに冷たい言葉が急速解凍されて出てきた。
「テメェ。悠々と学校サボってお散歩かよ?」
チク、どころじゃない。
ドスッグサッバキィッって感じ。
そのくらい心に刺さった。
でも、表情になんか出さない。
今の僕なんかが、出してはいけない。
ほら、騙せ。笑え。
もう後戻りはできない。しちゃいけないんだから。
「そうだよ?お散歩。どうせヒトミは僕の顔なんて見たくないでしょ?だから、察してあげたんだよ。」
目を見たくなかったから、わざと顔を背けた。でも、目なんか見なくてもヒトミのことなんてわかってしまう。
きっと今、怒ってるでしょ、ヒトミ。
耳まで真っ赤にして、手を震わせて。
ははは、僕ってすごい。
……早くここから消えたい。
そう思って無言でヒトミから背を向けた。
そのまま少し早めの速度で歩く。
どうかお願い。このまま追いかけてこないで。ヒトミ。
「っ待てよ!」
腕を掴まれて、否応なしに歩くのをやめさせられた。
「俺知ってんだ!今日の朝!担任から聞いた!」
は?何?
思わず振り向くと、やっぱりヒトミは耳まで真っ赤にして怒ってた。
「お前、事情があってこれからもあんま学校来ねぇんだろ!?」
一瞬、動くことができなかった。
なんで?なんで言っちゃったのさ先生。
内緒、内緒にしてって、言ったのに。
でもそこで、必死に回した脳が正答を出した。
みんなに内緒にしてるのにだって限界があるんだ。いつか絶対バレる時が来る。
その前に、ちょっと言えない事情があるとか言っておけば、みんなは知りたくても言えなくなるはず。
先生はきっとそう考えたんだ。
「事情ってなんだよ!言えないくらい大変な事なのかよ!」
一瞬の動揺を見逃さなかったヒトミが、一気に迫ってきた。
でも、言えないなぁ。
ねぇ、ヒトミ。
ヒトミ今、「信じたい」って顔してるよ。
やっぱりあの一回だけじゃ、ヒトミの僕への信頼は壊せてないみたいだ。
じゃあ、ちゃんと壊さなきゃ。
「なあ!アズマ!!」
「……そうだよ、ヒトミなんかには言えないくらい大変な事情なの。大体遠慮なしに殴ってきた奴になんか話すわけないだろ。クラスのみんなも同じ。話す価値ない。清々するだろ、僕がいない日が増えるんだから。」
ハッ、と最後に乾いた笑いを零してヒトミの顔を見る。
ヒトミはボーっとしていた。
最後のひとかけらを踏み潰されたって顔。
どうやら、トドメはさせたらしい。
自分でやったことだけど、その顔を見るのがどうしても耐えられなくなって僕は、背を向けて歩き出した。
ヒトミはもう、追いかけてこない。
分かってる。これでいいんだって。
これしかないんだって。
分かってるよ。
それでも、涙が止まらなかった。
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