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僕の幸福理論
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「じャあ、明日連れてきてやんヨ。」
そう言って、アラシは帰っていった。
そして入れ違いに先生がやってきた。
「ごめんね、学校に現状を説明しなきゃ行けなかったから…」
先生も先生で忙しそうだ。
てか、アラシ学校サボってんじゃん。
ちゃんと行ってるとか言ってたくせに。
「あのね、先生。話があるんだ。」
改まったような僕の言葉に、先生はぴくりと肩を揺らした。
「……どうしたの?」
先生の笑顔の裏に、何かを怖がっている先生が見えた。
でも、ごめん。
「…僕、思い出したよ。全部。」
先生がビクッと動きを止めた。笑顔が固まり、だんだんと崩れる。
「…思い、出したって…?何を……」
震えた手で、もう片方の腕を強く握る先生。
そういえば、先生は飛び降りた瞬間に屋上にいたんだっけ。
落ちてる時も先生の顔が見えたんだから、きっと衝突する瞬間も見てたのかな。
知り合いが落ちて、赤が飛び散る瞬間。
相当辛い記憶になったんだろうな。
「ごめん。…って、あの時も言ったんだっけ。」
いざとなると謝ってばっかだな、僕。
「思い出したって、なんで…?ずっと隠してたのに…だって、アズマくん、もう…」
先生が言おうとしてることは、嫌でもわかった。
「うん、記憶がない時は、ずっと勘違いしてた。もう余命まで時間が無いこと。」
先生が腕を握る手に力を入れた。入れすぎで血が滲んできて、思わず手を握った。
「でもね、記憶がない時もなんとなく気づいてたんだ。体の調子とか、お母さんの様子とかでね。」
先生の手をゆっくりと胸に運んでいく。ぴたりと手がくっつくと、先生の手がぴくりと揺れた。
「どんどん弱くなってる、僕の心臓。でもね、それでも、まだ動いてるでしょ?」
僕の言おうとしてることが良くわからないのか、顔を歪めながらも不思議そうにする先生。
「…死ぬってことって何かなって、ずっと考えて、やっとわかったんだ。死ぬってことは、この心臓が止まること。この思考も何もなくなること。ヒトミに会えなくなること。…こうして、誰かに触れることが出来なくなること。誰の笑顔も、見れなくなること。」
僕が、少し笑うと、なんでか涙を滲ませる先生。
「僕はまだ生きてる。たとえもう少しで死んじゃうとしても、まだ何か出来るよね?だったら、その何かを全力でやりたいんだ。」
ぽた、とベットにシミがついた。いくつもいくつも次々に落ちていく涙が、どんどんベットを水玉にしていった。
「今は、たくさん泣いていいよ。でもね、僕が死んだら泣いちゃダメ。笑って?たくさんたくさん、僕の分まで。」
先生の涙を手で拭う。何回も何回も。それでも、先生の涙は止まらなかった。
「僕が死ぬことは変わらない。でも、僕が死んだ後のことなら変えられるよね。」
ヒトミのことも、みんなのことも。
笑顔にできるような、そんな未来。
そんな未来に。
「…変えたいんだ、先生。」
「……っ…うん、うん、そうだね…」
涙声で、震える口で。
それでも、先生は笑った。
「…それが、アズマくんらしいや…」
その顔につられて、僕も笑ってしまった。
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