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彼の最終日
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ヒトミside
なんとなくわかっていた。
アズマの終わりが近いこと。
だから、病院に無理を言って大晦日を一緒に過ごすことになった。
俺だけじゃない。アラシと如月先生も。
シュウはリュウと二人で一緒にいるらしい。
医師も何も言わなかったけど、今日が峠だってことくらいわかった。
俺はアズマの前では笑った。
強がりとかじゃなくて、アズマには最後まで笑っていて欲しいから。
その終わりまで幸せに。
いくら来るはずもない未来の話でも、俺の気持ちが届いたら。
アズマが心から笑えるなら。
ゴーン、ゴーンと遠くで除夜の鐘がなり始めた。
「…なぁ、アズマ。」
でも、それでも、どんなに幸せでも、終わりが来る。
だから俺たちは、その未来の先の話をしよう。
「俺たちさ、もし生まれ変わっても出会える気がするんだ。」
手を握る。ひんやりと冷たいその手が少し握り返してくる。
「俺とアズマだけじゃない。アラシや先生にも会える気がする。今とおんなじ形にはならないかもしれないけど、それでも今度こそ俺はアズマを離さないよ。」
「独占欲強そーで嫌だネ。」
「そうかなぁ。先生は二人ともいいカップルになると思うけど。」
「……ぼく、どんな人なのかなぁ…」
アズマがつぶやく。俺は少し笑って目を閉じた。
「そうだなぁ。ろくな人生送ってなさそう。幸薄そう。そんで俺も、また馬鹿やってそう。」
かすれた声で笑うから、一緒になって笑った。
「ははは…二人してダメダメだね。」
「でも、アズマは今より欲張りになってて、一緒にしたいこと沢山して笑いあってそう。笑顔も仕草も、今と変わらずに可愛いまんま。」
なんか照れるなぁと言いながら顔を背けるアズマ。
「…じゃあ、ヒトミは相変わらず馬鹿なんだろうなぁ…同い年じゃなくて離れてるかも…そしたらヒトミが年上かな…カッコよくて、きっとまた惚れるんだろうな…」
確かにハズい。これは恥ずかしい。
二人して顔を赤くして顔を背ける。それをアラシと先生が呆れたように笑った。
「コレさァ、俺たちいねェ方がよかったんじャネ?」
「…まぁ、見ているこっちが恥ずかしくなりそうだね。はは…」
だってこんな大切な時間を俺が独り占めして良いのか?いやもったないないだろ。
ちらっとアラシを見る。鋭い目に変な口調。顔はかっこいいけど。
「んー、アラシは今より恐そうだな。ケンカも強そう。ヤクザとかやってそう。大人になって口調を直したとしても、ふとした瞬間に出そう。残念なイケメンみたいな?」
俺の言葉にアズマと先生が吹いた。
「ふっ、ヒトミくん…俺とおんなじ事考えてる…はははは…」
「偶然、僕も同じだなぁ…ふふ」
「てッめェら……!」
拳を握りしめる姿はまさにヤクザ。殺気が目に見えそうだ。
「クッソ…あーならセンセーは今と全く変わってなさそーだナ。ナヨナヨで不器用で見てるだけで笑えソー。」
「んなっ…!!」
子供みたいな反撃。それに動揺する先生。
看護婦さんが注意しに来るまでギャーギャーと言い合いは続いた。
「…ちょっと、疲れたかな…」
しばらくして落ち着いた時、ポツリとアズマがそう言った。
「確かに少し騒いだもんな。ちょっと休めよ。」
「うん。日の出前には起こしてね?」
「俺が寝ててもアズマとか先生が起こしてくれるよきっと。」
「うーわー責任転嫁よくナーイ。」
「まぁまぁ。起きてたら起こすよ。」
それを幸せそうに見つめた後目を閉じるアズマ。
それを、俺はずっと見ていた。
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