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藍色の時間 2
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「ふあぁぁ」
普段からうるうるしている瞳を一際輝かせて、大きな水槽の前に立ち、その分厚いガラスに手を着いた。よかった、今日一緒に来れて。
嬉しそうな友希を見て心底そう思う。
あの一件があって以来、益々友希は自分のワガママを押し殺すようになってる気がした。それは僕にとってワガママでもなんでもないのだけれど。もともと気を遣うことが自然にできてしまう友希にとってはそれは大したことはないのかもしれない。でも、少なくとも自分にだけはそんな感情を抱いて欲しくなかった。
そう告げたとしても否定するだろうが。
「友希、こっちこっち、こっちのが良く見えんで」
「ほんまやぁ。俺、サメ好きやんなぁ」
「そうなん?」
「うん。サメって、凶暴なイメージあるやん?でもほんまはめっちゃ臆病なんやで。なんか可哀そうやん、勝手なイメージ持たれて」
「ふーん、そうなんや」
「それに、目、めっちゃ可愛いんやで」
にこにこと笑顔を僕に見せながら説明してくれた。
ごめん、友希。水槽に向かったまま僕に教えてくれるキミが可愛すぎて、正直頭に入ってこおへんわ。
でかい水槽の中にサメや、ウツボ、エイやマンボウ。様々な種類の魚たちが泳いでる。
友希がうっとりと見つめる先におるサメのお腹にはコバンザメ。でかい体に寄り添うようにくっついているちっちゃい生き物。
なんか、僕みたい。
身体の大きさは逆だけど、サメが友希でコバンザメが僕。ずっと寄り添っていないと生きていけない、きっと。
館内は人は多いけど静かで暗い。室内自体が暗くて良かった。この巨大な水槽はここの目玉なんやろ、ぎゅうぎゅうなくらい人が集まってて、それが逆に僕を隠してくれてる。
僕は、横に立ってる友希の手をそっと握りしめた。
「え、」
「だいじょぶ」
「・・・うん」
必然的に見下ろすと、友希は一瞬俯いてしまったけど、その手を振りほどくわけでもなくすぐに顔を上げて、空いた方の手でまた水槽に触れた。
きっとこういうことをしてみたいと思ってるはず。
やって、僕がそう思ってるから。
変装なんてバカみたいなことをしないで一緒に外を歩きたい。
誰の目も気にしないで手を繋ぎたい。
この人が大事な人ですって、誰彼構わず紹介したい。
少なくとも、僕がこんな職業やなかったら、一つは叶えられることができたであろうことすら困難なことだから。
きっと友希は何も言わない。いろいろ思ってても、僕に負担を掛けてしまうって勝手に思い込んで、何も言わないだろう。
だから、ずっと離れない。僕は友希から絶対離れない。
指を絡めると、その手が同じ力でぎゅ、と握られた。
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