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ゆけむり物語 6
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俺は時々心底悟に同情する時がある。今もまさしくそうだ。
「・・・上坂、自分ほんまに」
「え?ほんまほんま!俺がしょうもない嘘ついたことあるか?」
遠足の前日の小学生が、明日持っていくおやつをうきうきと選んでいる。例えるとするならそんな感じだ。
昔からそうなのだが、ヤツは自分にとって楽しいことを見つけると、普段の何倍もの行動力を発揮する。例え、それがほかの人間にとってどんなにくだらなく、つまらないことだとしてもだ。良くも悪くも上坂にとって、奴を満足させることであれば、周りの人間など顧みずに行動することなんてざらだ。
「もう連絡したしー、オッケーもらってるしなー」
『わくわく』と顔に書いてある。そしてそんな盛大ににやけた面で、山になった書類を鬼のような速さで目を通し次々と片づけていく。片手に印鑑、片手にペンを持って。
どこでそんな技身に着けたんだか。
そんなこと出来るなら普段からやれよ…。
「だから急な休みの申し出に許可出したんか」
「んー?そう」
「ほんまにお前は。おかしいと思ったんや」
三日前、悟が突然お願いがあると言ってきた。どうせいつものように、今日は早く帰りたいだのどこかの店に連れてって欲しいだの、そんな類のことだと思っていた。それはすべて友希君の為のことであったのだが。なので、いつものことかと話を促した。すると
「少し長めの休みが欲しい。温泉旅行に友希君を連れてってあげたい」というものだった。
最初はダメだと答えようとした。
今悟は確実に大事な時期だ。仕事の幅に広がりを持たせるチャンスがいくらでも舞い込んできてる。
それを蹴るなんてこいつのマネージャーとしてバカのすることだ。こんな時に、こんなチャンスに。
だが、そんな悟のモチベーションを支えてくれているのは間違いなく友希君であることも事実。
驚くほどに誰よりも優しく、献身的で母親のように、愛情深くそしてもちろん、恋人として一番に悟を支えてくれている。
こんなに出来た人間がこの世にいたのかと感心させられる程に。
そしてそれは上坂も十分理解している。悟がどう思ってるかわわからないが。
「お前の親戚のとこだろ?せやから俺も許可出したんや。やないとあいつアホやからすーぐ騒がれるやろ」
「いや、そういうことやなくて」
「ま、ええやん」
悟は、友希君の為に頑張り、友希君を喜ばせる為だけといっても過言ではないほどに仕事に真剣に取り組み、心の底から友希君のことを大切に思っている。だから俺もその友希君の為にも悟を成功に導いて行きたいと本気で思うようになったのも事実。
だから、『親戚の旅館』という条件付きで休みを与えることにした。
「上坂、仕事終わるのか?」
「んー?終わるに決まってるやん、俺を誰だと思てんの」
「とりあえず、他の宿に、」
「遅なった夏休みやで?俺の好きなとこ行かんとなあ。あ、諒君もそこがええって言うてたし」
「でもやな、やっぱり・・・」
ぐふふと口元に手を当てて笑う奴は既にいたずらっ子のの表情に変わっていた。
そう。この社長も行くと言い出したのだ。
温泉に、同じ日に、同じ宿に。
そう、悟と全く同じスケジュールで。
もちろんダメだと言った。言ったんや俺は。せっかくの友希君へのご褒美だ。邪魔はしたくなかった。しかし、こいつはいつでも一歩先を行きやがる。
「え?俺もう予約したで。同じ日に。お待ちしております、って女将さん言うてたで」
・・・昔確か何度か世話になったことのあるそこは、既に上坂のテリトリーということか。二つ返事でOKだったと。
「・・・お前、ほんまに悟になんか恨みでもあんのか?」
「ないない!あいつが困った顔見るのが好きなだけやって」
・・・・・・ほんまにタチが悪い。
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