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この世界のこの瞬間 1
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「あら友希君、またお届け物?」
「あ、橘さん。・・・はい、すみません」
「なんで友希君が謝るのー?」
ぺこりと頭を下げるとその綺麗な女性は俺に向かって笑顔を見せた。
ほんまに、あいつがこんな仕事をしてなかったら一生俺には縁のない世界やと改めて思った。
今日俺は悟の事務所に来ている。何をしているかというと、
「今日は何?」
「あ、昨日間違って今日の衣装を着て帰ってしまったみたいで・・・」
「もー、ほんとにあの子は」
あいつのこととあの子と呼ぶこの人は数少ない。この橘さんは鈴木さんと肩を並べる敏腕マネージャーで、主に女性モデルの担当を任されているらしい。
黒く長い髪を後ろで一つに結んだ、ただそれだけなのにとても品があり、尚且つ大人の色香を漂わせている。薄く引いた赤い口紅は他のどのモデルよりもこの人に似合っている。
社長さんと同じで元はモデルだったとのことだが、何があったのか知らないが表舞台から引退して今は裏で後輩を育ててるということだった。
「ほんとに何も考えてないんだから、友希君に迷惑ばかりかけて」
「いや、ほんまに大丈夫ですよ」
「たまには怒っていいのよ?」
口では怒っているようだがその表情は柔らかい。さしあたり、言うことを聞かない子供を窘めるといったところだ。関西から出てきて右も左もわからない悟に、厳しくも優しく色々と教えてくれた人の一人だということは聞いていた。
俺の横に立ち、悟のいるスタジオに連れて行ってくれる。
何故、俺までがこんなに事務所の重要人物と知り合うことができたか。それはあの女装事件である。
上坂社長の悪乗り(と後で悟が散々怒っていた。俺は役に立てたならそれでいいと何度も言ったんだけど)で悟の雑誌の相手役で写真を撮ったことがあった。俺は女装姿で。そしてそれはそのまま発売されてしまい、後にも先にも悟の表紙の雑誌で一番の売れ行きだったとのことだった。
勿論それ以降俺は雑誌に載るなんてそんな大それたことはしたくないが、この橘さんと社長だけはその後何度も
『友希君、もう一回やってみない?』
と声を掛けてくれているのだ。がしかし、本当に自分にこんなキラキラした世界は向いてないし、務まらないどころか迷惑を掛けてしまうのは目に見えているので(悟も猛反対してるし)ずっと断り続けている。だから、
「ところで友希君」
「はい?」
「もう一度やってみない?ね、今度は私が」
「橘さん、すみません」
こんなに綺麗な人の頼みなんだからとは思うけど、やっぱり自分には務まらない。悟みたいな才能は無いし、迷惑をかけるだけだ。
「そう。でも、私諦めないからね。あ、上坂社長もよきっと」
「あはは。そうですかねぇ」
笑いながら廊下を曲がるとスタジオが見えた。
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