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この世界のこの瞬間 5
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「え、ちょっ、友希!」
部屋に駆け込んでベッドに潜り込む。こんな顔見られたくない。きっと酷い顔だ。潜り込んで布団を被ってると、バタンとドアが開いた。しまった、鍵を閉め忘れた。
悟が近づいて来るのがわかる。
「ほんま、どうしたん?具合悪い?」
「・・・ちゃう」
「そしたら、」
「悟、女の子に、ほんまに、モテるんやな」
「・・・へ?」
「今日、スタジオ行った」
「あ、撮影見てたん?」
「うん」
悟が腰掛けた時に、ベッドがぎしと揺れた。あかん、もう、止まらん。
「めっちゃカッコよかった」
「え、ほんま?」
「けど、」
「けど?」
「女の子たち、ほんまに悟の事、好きやと思う」
「え?なにそれ」
「やって、」
わかるもん。あの時、あの空間で、みんな悟に心奪われた。俺なんて、毎日毎日悟に会ってるのに、あの時また、悟に恋した。
だから、仕事とはいえ女の子達がそれを超えて悟に好意を抱いたのなんて手に取るようにわかった。だから、俺はそれを見たく無くてあの場から逃げ出したんやもん。
こんな、わけのわからない感情、持て余してどうしようもない。どうしたらいいかわかんない。
「だから、出てって・・・」
「・・・」
「こんな酷い顔、悟に見られたない。なに言ってまうかわからん」
「・・・友希」
「お願いやから、」
ぼろりと涙が溢れた。胸の辺りがぐちゃぐちゃして喉が痛くなって、鼻の奥がつんとして、最悪なことに涙まで流れる始末。こんな変な俺に、疲れた悟を巻き込んだらあかん。明日もきっと朝早くから仕事に行かんといかんのに、付き合わせたらいけない。布団を被ったまま悟の足をぐいと外に押した。そのとき、
「友希っ」
少し表に出た手を掴まれた。うわって思った時にはもう遅くて悟が布団を剥いだ。最悪や、こんなぐちゃぐちゃの顔見られるなんて。
「さと、る」
「友希・・・ヤキモチ妬いてくれてんの?」
「え?」
俺のどす黒い感情をよそに、目の前に現れたその表情は頗る明るくて、寧ろ嬉しそうなくらいやった。
ヤキモチ?違う、そんなんやない。きっと、もっともっと悪い感情や。
「こっちおいで、友希」
「い、いやっ」
「ええから」
布団を被ってうつ伏せになってた俺を無理やり起こしてぐいと、悟の腕に捕えられた。そして、またあの匂い。思い出す。悟が腰に回した女の子の顔。
「いややっ!悟、女の子に、モテるしっ、俺なんかより、ずっと、可愛い子とか、いっぱい、おるしっ!俺と一緒におるメリットなんか、全然無いしっ」
「友希」
「やって、ほんまに、ほんまの恋人みたいやってん、綺麗なモデルさんと。・・・俺、あんな、あんなにカッコいい悟の表情、見たことないもん。俺にはあんな顔、させられんもんっ」
「ゆーき」
「俺なんて、ただの学生やしっ、チビだし、カッコよくもないし、女の子みたいに可愛く無いし、それに、男やしっ、全然悟に釣り合わんし!」
もう止まらんかった。ずっと、きっと心のどっかでずっと思ってることが、今日悟が仕事をしてるのを見て改めて思い知らされたんやと思う。
あんなにキラキラした、華やかな世界にいる悟を、俺がいるばっかりに足を引っ張ってるって、思わないようにしてた感情を、引き摺り出された。
涙がぼろぼろ溢れて、喚くようにそう訴える俺の頬を、悟は静かに指で拭ってくれた。何も言わないでうんうんと話を聞くように。
俺よりも随分大きな悟を前に、俯くようにそう喚くと、ゆっくりと顔を上げさせられた。
ほんまに酷い顔やきっと。
「ほんま、俺は女の子に、勝てん。何も勝てん」
「ゆーき、ほら、こっちきて」
「いやっ」
悟は、向かい合わせに無理やりな体制で抱き締められてた俺を、更に強くぎゅうと抱きかかえた。
俺はたまらんくなって両手で顔を覆った。
「うっ、ひぅっ・・・」
「ゆーき、なんも心配せんで?僕は、友希だけしか見てへんよ」
「う、うそ・・・」
「嘘やないって。もーっ、ほんま可愛いんやから」
悟の長い指が俺の前髪を掬って、おでこにキスされた。
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