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裕貴
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こんな気持ちになるのは…いつ振りかな。
電気もなく、真っ暗な家の成れの果ての中を、いきなり訪ねてきた不法侵入者だった彼と、話しながら歩く。
出会った時には、彼は二度と来ないだろうと思ってた。
だって、ここは誰もが気味が悪いと思う家だから。
違うか…。
家じゃない。
ここは真夏という少年の存在を忘れさせない為だけに存在している、箱だ。
僕も、真夏の家族も。
白い箱にずっと囚われていた。
はあ、と小さく溜息を吐く。
学校の理事である叔父には散々、自分の時間を生きろと言われた。
真夏はもう何処にも居ない。
僕は…認めたくなかった。
だから、誰にも忘れさせないように真夏の名を語った。
そうすると、段々自分が真夏になったかのようだった。
そんな事をしても、何も意味は無いのに。
真夏を忘れること。
その恐怖に僕は一人で怯えてたんだ。
「真夏の名を語るのは、もう止めるよ」
「え?」
聞こえてないのか、間の抜けた顔をした彼が首を傾げる。
「何か言ったか?」
「……何も」
「そっか。なあ、何か食べに行かねえ?腹減ったー」
前を歩く、能天気な彼を見ながら、少し笑う。
自分の中の時計が、漸く動き出した気がした。
ここから出よう。
そう心に決めた。
期末テストに向けて勉強していると、携帯の画面が光った。
画面に表示されている名前を見て、口元に自然と笑みが出る。
シャーペンを置き、暇そうな相手に返信を何て送ろうか、悩む。
あれから、三ヶ月が経っていた。
夏休みが終わり、あのまま後にした白い箱には戻らず、僕-白波 裕貴はサボっていた時間を取り戻す為、勉学に勤しんでいた。
メールの相手は、あの不法侵入者、竹内だ。
彼は暇になると、くだらない内容のメールを度々寄越して来る。
今日は…学校の友達の話だ。
毎日、君はほんと楽しそうだね。
読んでるだけで、バカ騒ぎしてる姿が浮かぶよ。
今度、裕貴と遊びたい
最後の文を何回も見てしまう。
僕の事を下の名前を呼ぶのは、今まで一人だけだった。
それは真夏だ。
大切な親友だけだった。
真夏の夜、彼を無くした場所で、僕は変わった友人を手に入れた。
いいよ
何処に行くの?
返信をしたばかりなのに、すぐ携帯が震える。
…ほんと、どんだけ暇なの。
呆れながらも、メールを開き、僕は苦笑した。
「……ほんと、変わってるよ」
白い部屋
それだけ。
たった一言。
「あそこ……暖房ないけど」
バカな君はそんな事、全く考えてないだろうね。
真夏の夜に見た夢は、まだ続いてる。
僕は、もう淋しい気持ちにはならない。
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