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人間らしく『ゆきの誕生日編9』 【真面目】
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瑞月は、両目にいっぱいの涙を溜め、下唇を噛みこみ、必死に泣くのを我慢していた。
「本当、わりぃ」
瑞月の目の前で両手を合わせ、深々と頭を下げる。
絢乃は、何度となく狭山の携帯へ電話をかけていた。
「なんで、ですか?」
瑞月は、喉から絞り出すように声を紡ぐ。
オレは、頭を下げたまま、瞳だけをちらりと瑞月に向ける。
「僕、立花さんに……何か、しましたか?」
オレは大きくかぶりを振る。
「僕が…僕が、ゆきのこと大事に想ってるの知ってますよね?」
瑞月の瞳から堪えきれない涙が粒となり零れ落ちる。
「僕はゆきに不安しか与えられないからっ。ゆきを癒してあげたいのにっ。僕、ゆきのこと傷つけてばかりだからっ」
堪えきれない感情に、涙をぼろぼろと落としながら、言葉を放つ。
瑞月は両手で顔を覆い、その場に蹲る。
「あぁ、本当悪かったって。マジでっ」
オレは自分への苛立ちのまま、髪を掻き上げ、ガシガシと頭を掻く。
「ダメだ。捕まんないわ……」
ため息交じりの絢乃の声。瑞月の横にしゃがみ込み、優しく頭を撫ぜる。
オレも瑞月の前にしゃがみ込み、口を開く。
「オレだってお前らを別れさせようとか思ってる訳じゃない。瑞月には……瑞月と狭山には幸せになって欲しいと思ってるよ」
瑞月は泣き濡れた瞳をオレに向け、ぐすっと鼻を啜る。
「瑞月は狭山のコト、癒せてると思うぞ。アイツ、かなり人らしくなってんじゃん」
にやっと笑ったオレに、瑞月は泣きながらも睨み付けてきた。
『人らしく』の言葉が気に入らなかったらしい。
「あぁ、わりぃ。オレ本当、口、悪いな……」
はぁっとオレの口からため息が漏れる。
「でも、私も思うよ。瑞月くんは狭山にとって凄く大事な存在だよ」
にこりと微笑む絢乃に、瑞月はまた、ぐすっと鼻を啜り、瞳を向ける。
「本当、私も思うんだ。狭山が人間らしくなったなぁって……感情が出てきたって言った方がいいのかな?」
絢乃は、ふふっと笑い、優しく言葉を繋ぐ。
「冷たい笑顔の仮面をずぅっと被っていたような奴が、瑞月くんのことになるとあんなに感情むき出しになるんだよ? 瑞月くんが狭山の感情を解放してるんだよ。それってすごいことじゃない?」
絢乃は、両手で瑞月の顔を優しく包み、親指で流れた涙を拭う。
「瑞月くん、一回帰ってみなよ。居るかもよ? 家」
こっちも探してみるけど、と絢乃は、瑞月に帰ることを促した。
瑞月は泣きながらも、絢乃の言葉に従い、ゆっくりと立ち上がった。
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