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Ⅲ
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「いつからそこに居たの」
少し照れたようにオドランが笑い、振り返ると、覗き窓から差し込む月明かりに照らされた細身のシルエットが揺れていた。
それは突然に、まるで闇から湧き出て来たかの如く現れたのだが、オドランは別段驚く様子も怖がる様子もない。まだ実態の定かでない影の様な者に向かって優しく微笑みかける。
影は、ゆらゆらと揺らめき、次第に形を作りながら、オドランに近づいてきた。
「いつからって……あの女の子が帰ってしまってからだよ。だって、僕は火がある場所には入れないから」
「それもそうだね」
影がオドランの目前まで来た時には、すっきりとした人型を成していた。ぼんやりと浮かぶ真っ白な手が、オドランの頬へと差し出される。いつだって雪よりも冷たいその手を慈しむ様に、オドラン自ら頬をすり寄せた。
「ああ……ロナン。愛しいロナン。僕がどれほどこの日を待っていた事か……」
すっかり姿を現した少年が切なげな瞳でオドランを見つめた。
ロナン――オドランの記憶にある美しい黒髪と漆黒の瞳を持つ女性によく似た少年。オドランが行方不明となった翌年から、ロナンはオドランの元を訪れる様になっていた。会えるのは、この地域の一年の終わりと冬の始まりを祝うサウィン祭の夜だけ。
一年に一度しか会えない。その事は、オドランだけではなく、ロナンも同様に寂しく感じていたのだ。
「オドラン……僕のオドラン。僕もどれだけ君に会いたかったことか……」
言うが早いか、ロナンの真っ赤な唇がオドランの唇と重なる。やはり、雪より冷たいその唇にオドランは小さく震えた。
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