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近づく夏 2
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「じゃあ、また来るね」
「あぁ」
笑顔で手を振り、病室を後にする。
時生さんは、ここに来るなとは言わない。
時折優しい眼差しを向けてくることから、喜んでくれてるとは思う。
だけど、困った顔をするのを俺は見逃さなかった。
いや、困った顔というよりはむしろ……。
時生さんに会い満ち足りた気持ちとほんの少しの寂しさを抱きながら、帰り道を歩く。
と、そこに携帯が鳴り、相手は衛だった。
『遥?まだ病院?』
「ううん、今帰ってるとこ」
『そっか。今から家行っていい?今日の講義でさ、聞きたいとこあんだよね』
「いいよー、俺も教えて欲しいとこあるし」
『ご飯まだだよね?』
「うん」
『んじゃ適当に買ってくー』
「よろしく」
俺と衛はおもしろいぐらいに得意なものと苦手なものが真逆だったりする。
なのでお互い教えあいっこは試験前には恒例となっていた。
「やほー」
「いらっしゃい」
俺が住むのは、八畳ワンルームのアパート。
中に入った衛はテーブルに買ってきたほか弁を置き、そして荷物を床に置くと、冷蔵庫からお茶を取り出してついでに棚からグラスを二つ取り、戻ってくる。
もう何回もここに泊まっている衛。遠慮もなにもなく我が物顔だ。
衛らしい。
ラグの上に座り、まずはお腹を満たすためにご飯を食べ始める俺たち。
その間の話題は、時生さんのこと。
「どーなの?」
「落ち着いてるよ」
「そ」
時生さんに会ってきた、と時生さんの所に行った翌日に衛に話した。
病気のことも、時生さんの想いのことも。そばにいると決めたことも。
話を聞いた衛は驚いていた。そして、遥はそれでいいの?と。
衛は口に出しては言わなかったけど、その雰囲気で伝わってきた。
衛は、この先辛い思いをすることが目に見えているのにそばにいるのか、と聞きたいんだと。
笑って頷くと、衛は微笑んで、好きにしなよ、と言った。
そして、胸なら貸したげる、と。
そんな衛の優しさが嬉しかった。
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