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願う冬 5
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『今年一番の冷え込みとなるでしょう』
ニュースのお姉さんが、雪がちらつくかもしれません、とそう続けた。
ホワイトクリスマスになるかな。
今日はクリスマスイブ。
何もいらないと言った時生さんだけど、何かお願いごとはないかと聞いてみよう。
そしてもし、願いごとを口にしたら、何でもしてあげよう。
穏やかな時間の中、二人でその世界に浸ろう。
そんなことを思いながら、家を出た。
時生さんのいる病室は、世間から切り離されたかのように穏やかな時間が流れる。
時生さんの病気は治ったんじゃないかと思ってしまうぐらいに。
このままいけば、時生さんは元の生活に戻れるんじゃないかと、ほんの僅かな希望を抱いていた。
もっと、たくさん、ずっと長く一緒にいられるんじゃないかって。
愚かにも、俺はそんなことを思っていたんだ。
時生さんが強く願っているものが、何なのかも知らずに。
病院に向かうべく電車に揺られていると、携帯がメールを受信する。
相手は上田さんからで。
『奥さんがケーキ焼いたからお裾分けしに行きまーす。もう病院にいる?あ、安心してね。渡したらすぐ帰るから。二人のお邪魔はいたしません』
文末にあるキリリと敬礼をする顔文字に笑みを浮かべながら、『ありがとうございます。今電車です。あと30分ほどで病院に着きます』と返信する。
上田さんから了解、と返ってきたのを確認すると携帯を鞄に入れ、軽く振り返って電車の窓から空を見上げた。
ここ最近ずっと空を眺めている時生さん。何を思いながら空を見ているんだろう。
うっすらと曇ってきた空に、本当に雪が降りそうだな、と思った。
案の定今日も、カーテンを開け放ち軽く上を向きながら遠くの空を眺めている時生さん。
だけどいつもと違うのは、ベッドから見ているんじゃなく、時生さんは窓際に立っていて。
しっかりと立っていているように見えるのに、その立ち姿に俺は何故だか不安を覚えた。
「…時生、さん…?」
思わずかすれてしまった声。
「…遥」
時生さんはゆっくりと反応して、そして──。
振り返ったその瞬間、くらりと時生さんの体が傾いだ。
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